越境学習支援プロジェクトの課題と可能性

  • ブックマーク
越境学習支援プロジェクトの課題と可能性

みなさん、おはようございます!タカハシ(@ntakahashi0505)です。

こちらの記事は、タカハシが音声メディアVoicyの「スキルアップラジオ」にて放送した内容から、ピックアップしてお届けします!

今回のテーマは、越境学習支援プロジェクトの課題と可能性です。

なお、以下で実際にお聴きいただくこともできます!

では、よろしくお願いいたします!

越境学習支援プロジェクト第1期を終えて

越境学習支援プロジェクトの第1期が今年の8月で終わりましたので、それについてお話します。3月からトライアルがスタートして、第1期としては4つの企業様に越境学習支援プロジェクトを提供していました。

先日2日間にわたって、越境学習をされた学習者のみなさんによる最終発表会がありました。12名のみなさんが、それぞれ10分のプレゼンをして、越境学習の振り返りや今後について発表していただきました。

越境学習には葛藤が伴うというのは事前に理論的にはわかっていたものの、実際にみなさんが悩んだり苦しんだりする、まさにそういったことが起きていて、僕はそれを半年間ずっと近くで見ていくことになる。そしてその苦しみをけしかけているのは、僕自身だったりするわけです。

頑張って乗り越えて欲しいという祈りのような思いと、もっとうまくやってあげられれば良かったなという力不足感と、いろんな感情がこみ上げています。

越境学習とは~学習者の葛藤

越境学習というのは、ホームとアウェイという2つの領域を行き来することによる学習のことです。

このプロジェクトでは、ホームはみなさんの職場、アウェイは僕が運営しているコミュニティ「ノンプロ研」になります。皆さんからするとノンプロ研が慣れていない環境、アウェイ感のある環境になるわけです。

越境学習では、最初にアウェイに越境した時と、アウェイである程度学んだあとにホームに持ち帰った時、この2回の大きな葛藤があると言われています。

ノンプロ研では、会社員とか経営者、お医者さんや農家さんとか、いろいろな職業の方がいて、みんなプログラミングに詳しくて、話している会話が何を話ているかまったくわからない。そんな状況に放り込まれるわけです。

そして、その人たちはめちゃくちゃすごそうなのにさらに毎日勉強していて、どんどん成長しているように見える。今までそういったことを学習していなかった身からする、と危機感みたいなものを感じるわけなんです。

アウェイに渡ったときの最初の葛藤はこんな風に生まれます。僕はこれを「アウェイの洗礼」ってよんでいます。

ある程度学んだあと、何か仕事で改善すべきポイントとがありそうだなとか、今学んだことが使えそうだなみたいなところが見えてくると、それをホームに渡って使ってみたくなるんですね。

ただ、ホームに戻って職場の人と話をしたり、いざ改善のアクションを取ろうとした時に、まわりのメンバーはみんなITにそこまで理解がないし、今の仕事に疑問を感じていなかったりとか、そういうことに改めて気づくわけです。

このときに再度、ショックや葛藤、もやもやを感じるわけで、これを逆カルチャーショックと言っています。

このようにホームとアウェイを行ったり来たりすることで葛藤が生まれます。いろいろな価値観の差やギャップにもやもやを感じる。それを通して、今まで当たり前だと思っていたこと、自分や会社の価値観のようなものを、改めて見直す機会になるわけです。

その折り合いをつけていくというのを自分の中でしていくわけなんですが、その中で新たな価値観を受け入れたり、視野を広げたり、新しく得たアイデアを自分の中に取り入れて自らを変化成長させたり、その力を使って周りを巻き込んで影響を与えたり、そういった能力が身についていくと言われています。

このような力を、石山恒貴先生の書籍「越境学習入門」では「冒険する力」などと呼んでいて、DXをはじめ変化が激しい今の社会で活躍するために有効な能力とされています。

越境学習によって葛藤が生まれる、苦しむ、悩むというのは、予定どおりなんです。越境学習でいうとそれが起きるのは望ましいことだと言えます。

ただし、その葛藤があまりにも負荷が高すぎると、心が折れてアウェイでの活動が十分にできなかったり、ホームでの実践も十分にできなくなったりと、越境学習自体が停滞してしまったりすることもあります。

なので、葛藤を残しながらも心が折れないように、越境学習が順調に進むようにサポートしていくことが求められていて、越境学習支援プロジェクトではそこのところを担当しています。

今回トライアルを半年間やってきて、その発表とか面談でいくつか課題が見えてきたので、それについてまとめてみます。

越境学習支援プロジェクトの課題

1.頼る技術の不足

他者関与の重要性

1つ目は頼る技術が圧倒的に不足してるということです。プログラミング学習の特に初期の段階は、他者関与がないと学習がかなりきつい。独学だと心が折れやすいんです。

当然学習の道のりも見えていないですし、自分が学んでいることがどう使えるかもイメージできない、エラーが起きた時に自分だけで解決できない、何もできないので自信が持てていない状態です。

なので、コミュニティというのを運営しているわけです。

コミュニティで、質問とか、他者のサポートを受けることで、初期段階に起きる乗り越えられない壁というのを他者の力を使って乗り越えていこう、そういうアイデアなんです。

ノンプロ研のメンバーはそこを十分に理解しているので、新しく来た方が質問するとか頼ってくることに対してウェルカムであるんですが、多くの方は頼ることに苦手意識があって遠慮してしまうんです。

結果的に独学とあまり変わらない状態になって、学習時間が高くつき、他の人から教えてもらえば3分ですむところを3時間悩んでしまったりと、停滞する時間が長くなる。なので自分には向いていないなどと自己効力感も下がる、こんなことがおきてしまいます。

結果、時間的・精神的負荷が重くなって、まさにアウェイ感が越境学習に起きるわけですが、そこがよからぬ邪魔をして、人を頼るのを遠慮させてしまうわけなんです。

人に頼ることを推進する

「もっと人を頼りましょう」というのは、面談などでかなり頻繁にアドバイスしているものの、なかなかできない学習者が多かったなという印象です。

こちらからのアプローチとして、口酸っぱく言うだけでは十分じゃなかったなというのが今回の反省としてあります。

いくつか具体的な気づきとしては、どこでどう質問していいかわからないというケースがありました。

これに関しては、Slackにはチャンネルがものすごくたくさんあるので、この場合はこういうところで質問するといいよということを、講座やチュートリアルなどで確実に案内して理解していただくようにする、というのが必要なのかなと思います。

また、別の視点としてはTwitterを使っているメンバーは、そちらでのボヤキをノンプロ研のメンバーがキャッチしてすくい上げるという例がわりとあったりします。たしかに、Slackでしっかり質問するよりも、Twitterのボヤキのほうがハードルは低いと思うんですね。

なので今後、ノンプロ研の講座受講者はTwitter使用をマストにしていく方向なので、Twitterをうまく使用していくことでそこの部分の改善は期待できるのかなと思います。

さらに頼ることについてはより踏み込んで、「他者関与によって学習する機会が必要だ」と言ってもなかなかできないので、できるようになるまで他者が関与して伴走する、そんな機会が必要だと考えています。

独学で「質問する」とか人に頼ることができないのであれば、それを他者の力を借りてできるようにする、という考え方なんです。

そのために「はじめてのコミュニティ活用講座」をすでにリリースしています。まだノンプロ研をうまく活用できていないメンバーは、ぜひ申し込みしてみてください。

2.学習者によって逆カルチャーショックの度合いの差が大きい

逆カルチャーショック

2つ目の課題は学習者によって逆カルチャーショックの度合いの差が大きいという点です。

人によっては、学んだことをある程度飄々とホームに持ち帰ることができていて、着実に成果を上げていたりします。

一方で、ホームに戻った時になかなか活用の機会が見つけられないとか、もしくは周囲の抵抗感が強くて、その場合は、大きな精神的な負荷になっているんです。

あまりその負荷が大きいとパニックゾーンに入り込み、自己効力感の低下や、学習の停滞に繋がってしまうことがあります。

負荷が高すぎてパニックゾーンに入らないように、逆カルチャーショックを弱めるようなことをしないといけないんですが、学習者自身が工夫できることと、受け皿となっている組織環境側ができることがあると思うんです。

ただ、ここで気をつけなくてはいけないのは、学習者ががんばらないといけないとか、組織側がちゃんと整えないといけないとか、どちらか一方のせいと他責的な思考に陥ってしまうとよくないと思います。

両方がそれぞれの立場でできることを模索しアプローチしていく、そこを支援する必要があるかなと思っています。

要素としては、学習者が現場裁量をどこま持っているかということがあります。

やはりある程度権限がある方だと、自分の裁量で仕事をバサッと減らしたり、うまく仕事の調整をして学習時間を確保したりとか、メンバーへの周知も上意下達でうまく腹落ちさせる機会を設けたり、そういうことをうまくできたりします。

現場裁量が無い方だと、そんなことをするのも実際難しい。

なのでメンバー選定のときや面談の時に、現場裁量がどこまであるかないか、現場で何だったら実践ができるのか、みたいなことは、伴走者とともにしっかり見極めてサポートしていかないといけない。裁量が無いメンバーほど負荷が高いので、そこは気をつけないといけないなと思っています。

キャラクターの中から再現性のあるものを見つける

役職に拠らない部分でいうと、学習者のキャラクターがどうだとか、人柄がどうだとかといった要素もあると考えられます。

ただ当然その要素もあるのですが、「あの人はそういうキャラだから」ということでまるっと片付けてしまうと再現性が見いだせなくなるので、キャラクターの中にも解像度を上げて、再現性がある部分を抽出して展開できるようにしたいなと思っています。

たとえば、以前のVoicyで話をした「批判を聴く技術」などは、誰もがトライできることだと思います。

その人がやっていることで再現性がある行動があるのであれば、それをちゃんと抽出してみなさんに展開していく必要があるかなと思っています。

3.学習による痛み

学習による痛み

3つ目の課題は学習による痛みもあるよということです。

ノンプロ研の場合、越境による葛藤が発生するのはお話した通りですが、それ以外に、学習することによる痛みみたいなものも同時に発生してしまいます。

まず、全然わからない自分に向き合わないといけないということ。プログラミングではわからない単語とか概念とかが山ほどでてきます。

そこにまずは向き合わなければいけない。そして学習の傾斜が高ければ高いほど、自分の無力感が強くなってしまうんです。

たとえば越境学習プロジェクトの場合、期間が半年になっているので、講座としては初級のプログラミング講座から中級のプログラミング講座へと間をあけずに連続して受講するパターンが多かったんですね。

初級のうちはまだよかったんですが、中級に入ったタイミングでものすごい傾斜になるので、一方で初級がまだ消化できてないし、実務での活用事例がまだ不十分なケースも多くて、なかなかその中級の学習の傾斜が高くなってしまうということがあります。

結果的に全然達成感を得られないまま、より傾斜が高くなって自己効力感が低下する、そういったことが結構見受けられました。

なので、連続で講座受講する場合は、まずは学習時間と実務での実践機会をなるべく多く確保できるようにしておかなければいけません。

もうひとつ重要なのは、先ほど1番目の課題でもお伝えしましたが、メンバーへ頼るということです。メンバーへの質問や、一緒にプログラミングをして教えてもらうペアプロなどを活用して、高い傾斜を一緒に乗り超えてもらうというのが理想かなと思います。

そういった形でほかの人を頼れるようになると、学習にかかる時間を少なくして、自己効力感のダメージも少なくし、高い傾斜を登っていけるようになりますので、やはりほかの人の力を借りるということが非常に重要だなと思います。

学習とプライベートの両立

もうひとつの痛みとしては学習とプライベートの両立みたいな葛藤があったりします。越境先がノンプロ研なので、業務時間内に越境時間が収まらないことが多いんですね。

業務時間内にすべての学習時間を収めるというのは一般的には期待しづらいです。なぜならプログラミング学習は、理想としては毎日1時間とか学習することなので、それを業務時間内に収めるのは一般的な会社の設計からするとかなり無理があるなというところです。

したがって、最初の段階ではプライベートの時間に越境学習の時間が割り込んでいってしまうんです。

その際に、前述のように自己効力感が低い状態で、実務でもあまり役に立てていない初期の段階で言うと、「こんなプライベートの時間まで犠牲にしてやるものなのか」みたいな葛藤が生まれやすい。

この葛藤が生まれることは、越境学習の視点で言うと決して悪いことではないのですが、やはりの負荷が高すぎると、挫折する理由にカウントされてしまう可能性があります。

対策としては、まずは学習時間の確保と実務での実践機会と時間の確保をちゃんとしておくということです。あとは他人に頼ることですね。

そうのようにして自我関与を高めて、達成感を適切なタイミングで味わってもらう。

これによって、プライベートを犠牲にしても自分にとって意味がある(犠牲という言葉はあまりよくないかもしれませんが)、学習する時間も自分の人生にとって貴重な時間なんだ、ということを早めに理解してもらうことが大切です。

越境学習が人生にもたらすもの

越境学習にはこのような葛藤、悩み、しんどさが発生するんですが、これらは、普通に働いていればあまり味わうことの無いことです。それで60歳、70歳まで働いていくというのが一般的な皆さんの考え方なのかなと思います。

しかし、越境学習の半年間で痛みとか葛藤を味わうことで、多様な人々や価値観に触れ、人に頼ることの重要さを知り、仕事への改善意識・問題意識を持つようになり、自分と仕事、場合によってはプライベートも含めた生活とか学習、自分自身について見つめ直す、そんな機会を得ることができたんじゃないかと思うんです。

間違いなく、これからの長い仕事人生の中で、少しでも流れを変えるような半年になったのではないかと思います。

今回越境学習に参加されたみなさんは自己効力感はまだ上がりきっていないかもしれませんが、応援していますので歩みを止めることなく、この先の長い人生でその果実を確実にゲットし続けてほしいとな思います。

僕は今回の反省をもとに、コミュニティや越境学習支援プロジェクトの設計や進め方に改善を加え、これからやってくる新しい越境者のみなさんにペイ・フォワードしていきたいと思っています。

越境学習プロジェクト参加企業を随時募集しているので、ぜひチャレンジしてみてください。

まとめ

ということで、今日はVoicy「スキルアップラジオ」の放送から「越境学習支援プロジェクトの課題と可能性」をお届けしました。

タカハシのVoicyの放送はこちらからお聴きいただけます。

チャンネルのフォロー、コメント、SNSでのシェアなどなど、楽しみにお待ちしております。

では、また。

  • ブックマーク

この記事を書いた人