目覚めよ大人、子どもに戻れ 〜『デジタルリスキリング入門』出版記念イベント 上田 〜 イベントレポート

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2023年7月29日、長野県上田市でノンプロ研主催のイベントが開催されました。以下、おおさわさん執筆のイベントレポートとなります。


みなさんこんにちは!

「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」のメンバーのおおさわです。

通称ノンプロ研と呼ばれる本コミュニティではメンバー同士がデジタルスキルを学び合う・教え合うなどの活動をしています。

今回は7月29日(土)に長野県上田市で開催された、『デジタルリスキリング入門』出版記念全国ツアー「目覚めよ大人、子どもに戻れ」の様子をお届けします。

当日は、『デジタルリスキリング入門』の著者でノンプロ研主宰の高橋さん、長野大学社会福祉学部社会福祉学科・教授の早坂淳さんのプレゼンと、おふたりのトークセッションがありました。

現地に参加して得られた学びが当日参加出来なかったみなさんに少しでも伝わったらうれしいです。

それでは行ってみましょう!!

大人の「学び・働く」の今とその楽しみ方

まずは今回『デジタルリスキリング入門』を執筆した高橋さんの登壇です。

上田での講演タイトルは『大人の「学び・働く」の今とその楽しみ方』です。

大人の「学び」

高橋 経済産業省が2022年5月に発信した未来人材ビジョンによると、日本の企業は他の国に比べると人に投資せず、また、個人としても社外学習・自己啓発を行っていない人が多く、学ばない傾向にあるということがわかっています。

そういった状況の中で、2022年10月に岸田首相が所信表明において「5年で1兆円」のリスキリング支援を行うと話題になりました。

リスキリングには様々な定義がありますが、市場ニーズに適合するため、保有している専門性に、新しい取り組みにも順応できるスキルを意図的に獲得し、自身の専門性を太く、変化に対応できるようにする取り組み、というIBMの定義をタカハシさんは好んでいるとのことです。

リスキリングという言葉が近年よく聞かれるようになったものの、人類は昔からリスキリングをしてきています。

例えば昔はそろばんを使って計算していたけれど、技術の進歩とともに電卓を使用するようになりました。

その時にはそろばんのスキルよりも電卓を使用するスキルが重要になりました。

現在はエクセルやスプレッドシートの登場により、これらを扱うスキルの方が重要になっており、今後も同様に技術や環境の変化に対応していく必要があります。

ただし一方で、中小企業の約7割はリスキリングへの取り組みや支援を行っていないという調査結果が出ています。

そのため、会社に任せていると、大人の半数は学ばないままになってしまいます。

大人の「働く」

高橋 パーソル総合研究所の調査結果によると、「はたらくことを通じて、幸せを感じている」という質問に対して日本は18カ国中最下位でした。

また、「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人、「転職や起業」の意向を持つ人も日本は18カ国中最下位でした。

つまりは、「働く」に幸せを感じておらず、今の職場にいたくないが、動きたくもないというのが多くの大人の「働く」になってしまっています。

厳しい受験や就職活動を乗り越えた先に無気力な社会が待っているのは非常に悲しいものです。

一方で、自分はノンプロ研を立ち上げてみんなで学び合う、教え合う環境を作ったことで、学ぶということは楽しい、また、学んだことを活かして働くことも楽しいということに改めて気がつきました。

現状では「働くのなんかつまらん」、「学ぶのなんてイヤだ」という意見を持つ人が多いですが、働くのも学ぶのも、楽しい!その方法もあるよ!ということを『デジタルリスキリング入門』や全国ツアーを通して伝えていきたいと思っています。

大人の学びと見せたい背中

続いては本イベントのゲストスピーカー、長野大学社会福祉学部社会福祉学科・教授の早坂淳さんの登壇です。

「大人の学びと見せたい背中」と題して子どもと大人の学びのポイントに関してお伝えします。

教育学から見た「学び」

早坂 教育学では古典的な二つの学びを学習します。

一つ目はスイスの心理学者ジャン・ピアジェの唱えた「学びは個人の中で生じる」というもので、二つ目は旧ソ連の心理学者レフ・ヴィゴツキーの唱えた「学びは人と人とのつながりの中で生じる」というものです。

ピアジェは個人の中に知識が蓄積され、学ぶのは強い個人になるためだとし、ヴィゴツキーは知識は関係性のなかに蓄積され、コミュニティがないと学べないとし、それぞれ考え方は違うけれど、どちらかが正解ということではありません。

第四次産業革命の中にある現代では、技術の進歩に合わせて必要とされるスキルが変化していますが、それだけでなく、そもそも学びのありかたや人との繋がり方などが、これまでと大きく変化しており、そのことを教育学では重要かつ危険視しています。

そうした中で世界的なパンデミックが発生したことで世界中の研究者同士が繋がり、この先子供たちに何を身につけさせるべきかが国際フォーラムなどで討論され、ある共通理解が生まれました。

ひとつは探究という考え方です。

これは問題を探すのではなく、自分で問題を作り、取り組み、解決していくことです。

もう一つは協働という考え方です。

価値観の違いを超えて他人と繋がることで新しい何かを生み出すことを指します。

これらを身につけることで、子供たちはウェルビーイングを備えて幸せに生きていけるだろうと研究者は結論づけました。

大人の「学び」の落とし穴

早坂 子どもは放っておいても学ぶけれど、先ほどの高橋さんの登壇にもあった通り、大人は学びません。

この理由はなぜかを考える前に、主体性の話をさせてください。

主体性とは、人から指示されなくても自分で考えて行動することで、教育学では自発性と内発性の二つに分けて考えます。

自発性とは、自分の外側のルールやレールに従うことで、内発性は逆に自分の内側から湧き上がるもののことです。

学びが自発性だとつまらないことが多く、どこかに辛さを必ず伴います。

大人は自発性の学びをしてしまいがちなので、学ばない人が多いのだと個人的には考えています。

それでは内発性の学びをするためにはどうしたらよいのか、ということについてこの後の高橋さんとの対談で深掘りしていきたいと思います。

続いてはタカハシさんと早坂さんお二人のトークセッションの模様をお届けします。

トークセッション

お互いの講演を聞いた感想

早坂 コミュニティの中で学ぶという私の目指す教育学の在り方をまさしく実践していて、いつもは人に嫉妬しないけれど、珍しく高橋さんに嫉妬しました。お会いできて良かったです。ノンプロ研のメンバーは内発性を持って自走しているというのを感じていて、自分の関わっているコミュニティの今後のヒントになると感じました。

高橋 ありがとうございます。私も早坂さんの自発性と内発性に関する話が「働く」に幸せを感じない人たち、学ばない大人たちにどう今後アプローチしていくかを悩んでいたところのヒントになりました。

ノンプロ研立ち上げのきっかけと今後の展開

早坂 高橋さんと今回のイベントの事前打ち合わせをしたときに、お互いの話す内容を事前に決めた予定調和的なものにしたくないということを話しました。トークセッションを通してその瞬間に学び合わないと、学ぶ楽しさを伝えられないと思い、あえて『デジタルリスキリング入門』を読まず、高橋さんの考えをほとんど知らないまま来ています。2017年にノンプロ研というコミュニティをどうして立ち上げたのか教えてください。

高橋 ノンプロ研を立ち上げた2017年頃はインフルエンサーを中心としたオンラインサロンが流行していました。学びには他者の力がないと難しく、どうすればよいかと考えていましたが、自分が教え続ける場合には、常に教えるコンテンツをアップデートする必要があり、難しいと感じていました。そんな中で、これまでに自分がプログラミングの講師をしたことや研修資料を作ったことが自分の中で大きな学びになっていることに気がつきました。そこから、自分だけでなくメンバーが教え合うコミュニティという環境づくりに繋がりました。

早坂 教える人が一番学べるというのはまさしくそのとおりです。これまでの学校教育では教える側の先生がどんどん賢くなっていくものの、教わる側の子供たちはすぐに忘れてしまうと思っており、子供たちが自分から学ぶ環境をどう作るか、というのを課題に思っていました。

高橋 そうなんですね、ノンプロ研が順調に活動している今、私は次のステージとして企業内で実践コミュニティをどう作るかを考えています。先日の大阪で行った『デジタルリスキリング入門』出版記念イベントではノンプロ研メンバーが社内コミュニティを作った話をしてくれました。今後はノンプロ研のようなコミュニティを企業や地域に広げていけるといいと考えています。

自発性の学びの広げ方

司会 ノンプロ研での活動には内発性の学びが多いと思いますが、企業で行われがちな自発性の学びとはどうして違いがあると思いますか。今後企業でノンプロ研のようなコミュニティを広げるためのポイントがありそうです。

早坂 教育学的には、自発性と内発性の間に大きな壁があります。学校教育ではどうするのが良いかというと、先生が答えを持っていて生徒を導くのではなく、生徒と一緒に答えを探すのだということを意識づけ、先生の位置づけを変えていくことが重要だと考えています。それが自発性の学びから内発性の学びに切り替えるひとつのきっかけになると考えています。

高橋 企業の場合も同じだと思います。例えばLIXILで行われたリスキリングの事例があげられます。LIXILでは経営陣が率先して社員と共にリスキリングに取り組み、社内に展開していました。私の主催しているノンプログラマー協会で行っている越境学習の取り組みにおいても、企業のトップが一緒に取り組むと、会社がどんどん良い方に変わっていく印象があります。

早坂 たしかにトップから変わるのが非常に重要ですね。現状を維持できる立場にいると変化へのモチベーションを持ちづらそうに思います。どうしたら今後企業の方々がリスキリングをしていこうとするマインドセットが出来ると思いますか。

高橋 そうですね、先日行った『デジタルリスキリング入門』出版記念全国ツアー大阪1日目のイベントが、ヒントになると思います。ノンプロ研には関西方面の建設業界に所属するメンバーが多く、その日は建設業界を対象としたものでした。私は経営者目線でリスキリングとはどうすべきか、という話をイベントでしましたが、その後のメンバーの登壇内容を聞いて反省しました。彼らはスキルが未熟でも、学びや気づきを当事者目線で話し、当日参加していただいた建設業界の方々にすごく響いていたのを感じました。

早坂 教育学にも同じような話があります。イタリアに40年住んでいる人が、観光客にイタリアのおすすめスポットを紹介するのと、1週間前にイタリアに観光しに行った人がおすすめするのでは後者の人の話の方が響くという研究結果があります。場を作る人と、他の人を引き付ける人のそれぞれが必要で、高橋さんだからできることと豊富な経験があるからこそできないことがあると思いました。なんでも自分でやろうとすると失敗してしまうということですね。

高橋さんなりのリスキリングの定義

司会 最後になにか質問したいことはありますか。

早坂 先ほど高橋さんはIBMのリスキリングの定義を出していましたが、教育学的にはまだリスキリングが自発性の領域にとらわれている気がしました。一方で、高橋さんの取り組みは自発性の領域にはとらわれていないように感じましたが、どのようにお考えですか。

高橋 そうですね、リスキリングの定義はいくつかありますが、私がIBMの定義を好きで紹介したのは、ほかの定義が時代の変化に適応しなければならない、すべきであるといった文脈に対して、適用できるようにする。というニュアンスの違いがあるからでした。今日の早坂さんの話を聞いていると、もしかしたら今後自分なりのリスキリングの定義を作らないといけないかもしれないと思いました。自分は時代が変化していき、新しい技術が出てくることで、新しい学びを得られる、自分がどんどん成長することが出来る、新しいことを知るのはわくわくして良いことだと考えています。だからずっとリスキリングしていたらハッピーじゃんと能天気にとらえています。

早坂 わくわくが加わった素敵なとらえ方ですね。高橋さんのリスキリングの定義が作られていくのをぜひ楽しみにしています。


以上、『デジタルリスキリング入門』出版記念全国ツアー「目覚めよ大人、子どもに戻れ」の様子をお届けしました。

高橋さんと早坂さんのそれぞれ違う目線からリスキリングについてお話いただきましたが、共通する認識が意外に多く、聞いていて非常に楽しく、学びある時間でした。

ぜひまた別のイベントが開催されるときには、みなさんもご参加ください!

ノンプロ研の情報については、公式Xや学習コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」のページをご覧ください。

みなさんのご参加をお待ちしております!

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この記事を書いた人

あやか

ノンプロ研在籍の二児ワーママ。ITベンチャー数社経験し、現在はフリーランス。GAS、Python学習中。趣味は読書です♪