「初めはすべてが異世界だった」ファンテック常務取締役・加藤 直史さんを変えた、社外コミュニティの力

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「初めはすべてが異世界だった」ファンテック社長・加藤 直史さんを変えた、社外コミュニティの力

「紙信仰」が根強いといわれる建設業界。仕事のやり方を根本的に変えようと、1からプログラミングの勉強を始めたのがファンテック常務取締役・加藤直史さんです。ひょんなことから入会した「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(通称、ノンプロ研)の影響で、加藤さん本人だけでなく、ファンテック社全体も変わりつつあるとか。加藤さんが「正直、想像もしていませんでした」と語る、ノンプロ研の意外な効果とは?

<ファンテック社>
基礎工事全般を手がけ、主に杭基礎工事の施工と施工管理を提供している。1976年に加藤産業株式会社として設立以降、関西・中四国圏を中心に、有名テーマパークから文化・商業施設、工場、学校など幅広い案件に対応。業務には、建築設計関連も含めた高度かつニッチな知識、ノウハウが求められる。関連会社に三国産業株式会社(販売店)がある。

建設業界は、デジタル化に対してかなり危機感が

――建設業界では、業務のデジタル化やDXは進んでいるのでしょうか?

正直言ってあまり進んでおらず、各社がまさに手をつけ始めたところだと思います。とくに、データは紙で持っておくのが安全だという「紙信仰」が根強い業界です。

一方で、建設業は今、圧倒的な人手不足に悩まされています。求人活動と並行して業務の省人化・自動化を進めなければいけないという事実に、すべての経営者が危機感を持っている状況。「うちの会社でDXなんてできそうもない……」「IT部門を作っても、うまく機能しない」という悩みをよく聞きますし、ファンテックも以前はそうでした。

――そんな中、加藤さんがプログラミングに興味を持ったのは、どうしてですか?

ファンテックに入社後、5年半ほど経ってから経理・総務に異動したことをきっかけに、業務効率化に興味を持つようになったんです。当時は今ほど社員数が多くなかったこともあり、僕の母が1人で、紙で経理業務を担当していたんですよ。

検討を重ねた結果、2015年に会計ソフトの『freee』の導入を決めました。数年かけて試行錯誤しながら導入する中で、社内で摩擦が起きたり、税理士さんが2度も交代したり……波乱万丈でした(笑)。

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紙ありきの仕事を変えようと、『freee』を導入したのがすべての始まりでした。

結果的に『freee』導入は大成功し、手応えを感じていた2021年4月、僕が新型コロナウイルスに感染しまして。丸々1週間隔離され、暇を持て余して業務改善について調べたところ、どうやらプログラミング言語「GAS(Google Apps Script)」が便利らしいと知りました。Googleのサービスを動かせる言語で、ファンテックで使っているGooogle Workspaceと相性抜群ですし、『freee』とも連携できるらしい、と。GASを使えば、業務効率化がぐっと前進するのではないかと考えました。

――GASを見つけた当時の加藤さんは、プログラミング未経験ですよね。どうやって勉強したんですか?

GASの基礎を調べるうちに、高橋さんのブログ『いつも隣にITのお仕事』(『隣IT』)にたどり着いたんです。懇切丁寧な『隣IT』の記事を見ながら、たどたどしいながらもコードを書いてみたら、ちゃんとプログラミングできたんです! 初心者でも、ルール通りにやれば正しく動くということに感動しました。それからは、仕事中もずっとプログラミングについて調べるくらい(笑)どっぷりはまりましたね。

そんなある日、参加した『freee』のAPI活用に関する講座の中でノンプロ研を知りました。あの『隣IT』の高橋さんが主催しているということで、すぐに入会しました。僕の信条は「やるかやらないか、迷ったらやる!」ですので。

ノンプロ研は「圧倒的に居心地がいい」理由

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僕にとっては、すべてが異世界だったノンプロ研。でも、社員はすぐに馴染んでくれました。

――いざノンプロ研に入ってみて、どうでしたか?

正直みんなが話している内容のレベルが高すぎて、あれ? 入るコミュニティを間違えたかな? と思いました(笑)。勇気を出して発言するも、とんちんかんなことを言ってしまったりして。それにSlackも使ったことがなかったので、すべてが異世界でした。

うまくいきはじめたのは、講座に入ってからでした。講師の方々とほかのメンバーが密にコミュニケーションしていて、わからないことはすぐに教えてもらえます。1人で勉強している間はバラバラだった知識がどんどん体系化されていき、さらに新しい知識や考え方にたどり着けるのが面白くて、やみつきになりました。

――ノンプロ研の居心地はどうですか?

最高です! とにかく質の高い集まりだと思います。誰かの発言に対して、誰も否定的ことを言わず、みんなで応援しあいます。一方で変な鼻の高さもないから、居心地がいい。仲間たちがそれぞれの業界・立場で頑張っているのを目の当たりにするのも、刺激になりますね。

――ファンテックでのお仕事と両立するのは大変だったのでは?

もともと、深夜まで残業するのが当たり前の生活だったんです。ノンプロ研に入ったのをいい機会として、不要な仕事を洗い出して整理し、勉強時間を捻出しました。20時間以上ぶっ通しでプログラミングした日も。より集中して仕事するようになったことは、副産物といえますね。

「学びの楽しさ」が社内に広がって、文化が変わった

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プログラミングの勉強をきっかけに、社員同士のコミュニケーションも活発に!

――連日の深夜残業! そのころファンテックはどういう状況だったんでしょうか。

2021年、ファンテックは「苦境の1年」だったんです。競合他社と比べれば待遇がよく、有給休暇も取りやすいホワイト企業なんですが、2年くらいで20人ほどの社員が退職してしまって……。一度負のスパイラルに入ってしまうと、歯止めが効かなくなるんですね。経営陣で連日、仕事のやりがいから社員教育、待遇、福利厚生などを真剣に考えました。

――そんな中で、加藤さんはノンプロ研に入会したわけですね。

はい。もう、カルチャーショックでしたよ(笑)。もともとはプログラミングを学ぼうと思って入ったノンプロ研でしたが、それに加えてコミュニティとしての凄さも学びたい、そして退職者の波に歯止めをかけたい! という意識に変わっていきました。

そのための策として、社員にもノンプロ研に参加してもらおう! と思いつきました。学びの楽しさを会社に持ち帰れば、組織が変わるかもしれないと。それに、僕が1人でプログラミングを勉強しても、スキルが属人化してしまってもったいないんですよね。試しに一部の社員に声をかけてみたら、みんな興味津々で、2022年1月から全6名が入会することになりました。20代から50代まで、年齢はバラバラです。

――結果的に、変化はありましたか?

驚くほど変わりました! 何より、プログラミングの話題でコミュニケーションが増え、社内で学び合う、助け合う文化が育ちました。仲間と一緒にやることで、勉強のモチベーションが上がるようです。ノンプロ研に参加していないメンバーも含めて、昼休憩をとりながらスプレッドシートに入力する関数の話をしていたりするんですよ。横で聞いていて、じーんとしてしまいました。

プログラミングのいいところは「みんな最初は初心者」であること。ベテランも若手も全員、プログラミングの勉強は1から始めます。社外コミュニティに入ったり、通常業務以外に目標が生まれたりすると、生活に張り合いが出ますよね。

退職者続出…会社を襲った「悪い波」が消えていった

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ファンテック社のみなさん。社内の和やかな雰囲気が伝わってきます!

――「越境学習支援プロジェクト」のトライアルにも参加されています。

越境学習という概念は知らずに社員を入会させましたが、結果的に越境学習になっていたし、成果も出ていた……というのが正直なところです。当初は僕も不安で、成功確率は10%くらいかなと思っていました(笑)。でも、みんなスムーズに馴染んでくれて、杞憂でしたね。当初の僕が立てた「2022年末までに、社員による自発的な勉強会を1回開催する」という目標は、早々にクリアしました。

――退職者は減りましたか?

はい。この半年間、退職者はほとんどいません。ノンプロ研がなかったら、ファンテックも僕の人生も、まったく違う状況だっただろうなとつくづく思いますよ。

――逆に、ファンテックからノンプロ研に影響を与えたことはありますか?

うちの社員のアイデアで、同業他社と合同勉強会をすることになったんです。今準備中ですが、それを見たほかの経営者から「うちもやりたい」と声がかかるようになりました。本当に社員みんな、積極性が育ったなあと思います。

僕自身は、ノンプロ研がきっかけで新会社「DAチャレンジャーズ」を立ち上げました。測量工事会社の経営者と組み、プログラミングを使って新しい測量機器を開発するというものです。ノンプロ研に入る前には想像もつかなかったことで、広がりに感動しています。

――今後、ノンプロ研にどんなことを期待されているか教えてください。

当社のほかのメンバーも少しずつノンプロ研に入ってもらって、継続的に越境学習の幅を広げていきたいです。新入社員の選択科目のような形にできたらいいですね。もっと大きな目標としては、ピンチを迎えている建設業界に、DXの波を起こしたいです。合同勉強会はその第一歩。必ず成功させます!

>>ノンプロ研に興味がある方は、こちらから!

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。