事務の現場から生まれた、新プロジェクト。「関西建設業界勉強会」のキーパーソン・江畑早苗さんの思い

  • ブックマーク
事務の現場から生まれた、新プロジェクト。「建設業合同IT勉強会」のキーパーソン・江畑早苗さんの思い

2022年7〜8月に開催された、関西建設業界勉強会(以下、勉強会)。企業の枠を超えて業界全体のDXを推進しようと、三和建設、三国産業、ファンテックの3社から有志が集まって始めた取り組みです。「建設業界のDXを進めたい」という思いが、どのようにして勉強会に昇華したのでしょうか。プロジェクトのキーパーソンとして活躍している、三和建設の江畑早苗さんに聞きました。

ノンプロ研の仲間との何気ない会話から生まれた、勉強会

――三和建設では、業務のIT化が進んでいるのでしょうか?

私が勤めている三和建設は、コロナ前からIT活用に積極的な会社です。数年前からRPAも導入しており、バックオフィスのIT化も進んでいます。しかし現場の事務作業はほぼ手付かずの状態でした。そこで、近年は私が自主的にGAS(Google Apps Script)を活用して、一部の作業を自動化するなど、業務改善を進めてきました。

事務作業の中には、会社が導入している大きな基幹システムや業務用アプリのフォーマットには乗らないような、独自の書類がたくさんあります。GASで作ったツールはかんたんにカスタマイズできるので、こうした細かい業務もすぐに自動化できます。こうした工夫によって、事務処理のミスを減らしたいという狙いがありました。

また、当社のようにIT化が進んだ企業でも、建築作業を行う現場では「データを紙で管理する」文化がまだ色濃く残っているんです。会社全体のIT化と並行してGASを取り入れることで、こうした現状を少しでも改善できるのではないかと思いました。

――江畑さんが「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(通称、ノンプロ研)に入会したのは、GASを学ぶためだったのでしょうか。

そうです! 2021年8月にノンプロ研に入会して以降、GASを活用した業務効率化を進められるようになりました。ただ、その一方で新しい課題も生まれてきたんです。具体的には、「社内からGASを使ったツール作成の依頼が増え、作業が追いつかない」「メンテナンスや運用が私1人に属人化してしまう」の2点です。いいツールを作るためには業務内容を熟知している必要がありますが、私の知識や想像力では到底足りず。自分1人でできることの限界を感じていました。

これらを解決するために、「社内でデジタル人材の育成を進め、GAS仲間を作りたい!」と考えるようになりました。でも、どうしたら仲間を増やせるかわからなくて、具体的なアクションを起こせずにいたんです。

そんな2022年4月のある日、ノンプロ研の仲間であり、かつ同じ建築業界の一員でもある加藤直史さん(ファンテック社)と話している中で、「会社の枠を超えて、IT勉強会をやろう!」というアイデアが生まれました。勉強会によって、社内のメンバーにGASの便利さや可能性を伝えることができるし、もしかすると仲間が生まれるかもしれない! と思ってワクワクしました。

なお、加藤さんは、以前から建設業界の人手不足という課題を感じられていて、それをITの力で改善しようと考えたそうです。加藤さんと私で、三和建設の森本尚孝社長に打診したところ快諾してもらえて。三和建設・三国産業・ファンテックの3社で挑戦してみようと、どんどん話を進めていきました。

――社長が快諾! 三和建設は柔軟な会社なんですね

三和建設の社風として、「一人ひとりの挑戦を後押しする」という雰囲気があります。私がGASで1つツールを作ると、社内のみんなが「こんな便利なものをありがとう!」「すごいね、面白いね!」「こういうツールもほしい!」と、好意的に受け入れてくれる。新しいものを取り入れることに消極的な企業も多い中、貴重な環境だと思います。だからこそ私も、無邪気に「次はこれを作ってみよう!」と挑戦を続けることができました。

受講生が「自走できるようになる」ことが目標

事務の現場から生まれた、新プロジェクト。「建設業合同IT勉強会」のキーパーソン・江畑早苗さんの思い
明るく開放的な、三和建設のオフィスにて。

――勉強会のプロジェクトは、いつから始まったのでしょうか?

話が浮上したのが2022年の4月。5〜6月に打ち合わせをし、7〜8月に全4回の講座を実施したという流れです。まずは、当社のDXを牽引する立場の吉岡明彦さんがチームに加わり、私の個人的な希望だった「GASを扱える仲間がほしい!」という願いを、会社全体の目標に引き上げてくださいました。

次に、当社で工事グループ庶務担当をしている渡辺夏未さんが、TA(Teaching Assistant、講師をサポートするメンバー)として関わってくれることになりました。渡辺さんに勉強会の目的や狙いを伝えたところ、すぐ運営チームに溶け込んでくれて。私たちの考えに共感して、一緒にゴールに向かって走ってくれる仲間がいる! ということがとても心強く、うれしく思いました。

――勉強会の中身を検討するにあたり、重視したのはどんなことでしたか?

講座のいちばんの目標に据えたのは、受講生が「自走できるようになる」こと。業務改善の意識を持って、自分で課題を見つける発想力、解決方法を調べる思考力、ツールを作り上げる実現力を身につけてほしいと考え、そこから逆算して講座内容を練りました。GASの学習そのものはこの勉強会ではしませんが、その足がかりを作ってもらえるようにと強く意識しました。勉強会への参加はあくまでも、きっかけに過ぎないと考えています。

――勉強会の企画を練るにあたり、参考にされたものはありますか?

ちょうどこの春、ノンプロ研で始まった「インストラクション講座」です。これは、インストラクショナルデザイン(最大の効果を得られるよう、学習の方法や内容を設計すること)の考え方を具体的に学ベる講座。またとないタイミングだと思い、すぐに申し込みました! 例えば、この講座で教わった「目標の解像度を上げる」というポイントは、勉強会の内容を考えるにあたってとても参考になりました。

新しい挑戦に際し、社内の摩擦はまったくなかった

事務の現場から生まれた、新プロジェクト。「建設業合同IT勉強会」のキーパーソン・江畑早苗さんの思い
江畑さん「三和建設のポジティブな社風に後押しされたからこそ、プログラミングを続けてこられました」

――プロジェクトを進める中で、3社の違いや共通点が見つかることはありましたか?

違いはほぼなく、やはり同じ建設業界にいる者同士、似た課題を抱えているのだとわかりました。例えば、再利用できない形式のデータを日々量産してしまっているとか、入力業務が重複してしまっているとか。データの運用でつまづいている状況は、各社共通でした。

――勉強会には、三和建設社員4名、三国産業社員2名、ファンテック社員1名の合計7名が参加されたそうですね。三和建設の方々に声をかけたとき、反応はいかがでしたか?

摩擦はまったくなく、「実は、以前からGASに興味を持っていました」「業務扱いで勉強できるのはありがたい」といった反応でした。私が取り組んできたことを、みんながちゃんと見てくれていたんだなと思って、驚きとともにうれしさが込み上げました。

私は以前から、自分がGASを使ってどんなことをしていて、実際の業務にどんな変化が生まれているかといったことを、社内向けに発信していたんです。興味を持ってくれる人が1人でもいれば、その人が業務で壁にあたったときに「もしかしたら、GASで解決できるかも!」と発想してもらえるだろうと。思えばこれも、「発信」を重視するノンプロ研の文化に影響されたことかもしれません。

――ノンプロ研で活躍している江畑さんですが、講師として参加するのは初めてだったのでは?

はい。TAの経験はありましたが、講師の経験は人生初でした。無我夢中で終わったというのが正直なところです(笑)。講師と生徒といっても上下の構図ではなく、「学びの仲間」として同じ立場にいる者同士。自分の学びの延長上で、講師の役割をやり遂げたという感じです。

デジタルツールの作成は、建築と本質的に似ている

事務の現場から生まれた、新プロジェクト。「建設業合同IT勉強会」のキーパーソン・江畑早苗さんの思い
勉強会の様子。画面を見ながら、参加者みんなで進めていきます。

――プログラミングと建築業のつながりについて、感じられることはありますか?

プログラミングを使ってツールを作ることは、建築と似ていると思います。新しいツールを作るときに必要な力のうち、「プログラミングのスキル」はせいぜい3割くらい。残りの7割は、依頼者の要望の汲み取り力や、使い勝手を良くするための画面デザイン力、後の改修を見越したコード設計力などです。これは単なるテクニックじゃなくて、ものづくりそのもの。

かたやデジタルツール、かたや建物と、作っているものはまったく違うけれど本質は同じなんです。これを肌で感じられる建設業界にいてよかったと思いますし、若い人たちにも、ぜひこの楽しさを味わってほしいです。

――勉強会を通して、江畑さんご自身の中に生まれた変化はありますか?

いい意味でかたくなさがなくなり、「みんなでやる」ことの楽しさや価値に気づきました。1人でGASを勉強していた頃は、全部私が仕上げなきゃ……とプレッシャーを感じていたんです。仲間が増えた今は、「みんなで力を合わせればもっといいものができあがる!」という予感に包まれています。また、同じコミュニティの人はどうしても考え方が似てきますが、違う意見を言う人がいることで、組織に大きな気づきが生まれると思います。

私はもともと、事務仕事の中で入力ミスの回数がとても多くて。それをどうにかして変えたいと、プログラミングを勉強し始めたのがそもそもの始まりなんです。その頃の自分を思い返すと、ノンプロ研に入ったことでプログラミングのスキルがついたのはもちろん、ずいぶん世界が広がったなとしみじみ感じます。

――今後の目標について教えてください!

目標は、GASの学習を続けていく仲間をもっと増やすことです! でも、未来のことは私が「こうなってほしい」と決めるべきではないと思っています。建設業界の未来を背負う20〜30代のメンバーから、私1人ではまったく思いつかなかったアイデアや価値がたくさん生まれ、広がっていくはず。それが今から楽しみです!

>>ノンプロ研に興味がある方は、こちらから!

事務の現場から生まれた、新プロジェクト。「建設業合同IT勉強会」のキーパーソン・江畑早苗さんの思い
  • ブックマーク

この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。