NEC×川崎市の地域コミュニティ「こすぎの大学」のコラボレーションで生まれたもの

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日本有数のテクノロジー企業、NEC(日本電気株式会社)。実は、神奈川県川崎市の地域コミュニティ「こすぎの大学」とコラボレーションすることで、両者にとって新しい価値が生まれつつあるといいます。こすぎの大学の運営メンバーである岡本克彦さんに、その取り組みについて聞きました。

※本記事は、2024年10月20日、Voicyチャンネル「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」で行われた生放送の内容から制作しています。

地域コミュニティとNECのコラボが成功した理由

岡本 僕が地域の仲間と一緒に「こすぎの大学」の活動を始めたのは2013年9月のことでした。月に1回の頻度でゆるく活動を続けて、5年ほど経った頃、当時僕が勤めていたNECから「NECグループをもっと地域に開放したい、そのためにコミュニティを活用できないか?」という話をもらいました。

当時、NECが地域住民と何かしら活動した実績はなく、まったく新しい挑戦でした。ぜひこすぎの大学が協力したいと思い、具体的なやり方をいろいろと考えました。結果的にやったのが、NECのオフィスでこすぎの大学の出張授業をするという取り組みです。NECは最先端のテクノロジーを持っているうえ、たくさんの社員がいて、さらに広大な敷地も提供できるので、ぴったりだと思いました。

また、NECの仲間からNECの敷地内に保育園を開設したいという相談があり、こすぎの大学をNECとの共催で開催したこともありました。当時は保育園不足が地域課題になっていたことを受けてのアイデアです。保育園にはIoTのカメラを設置して、保護者が家にいながら保育園にいる子どもの姿を見られるという付加価値をつけたところ、すごく評判がよかったです。

岡本克彦さん
岡本 克彦さん
サステナビリティカタリスト。NECグループに入社後、携帯電話の商品企画、コーポレートブランド戦略、NEC未来創造会議などを担当。企業間フューチャーセンターLLPでの越境・共創活動の経験を活かし、2013年よりソーシャル系大学「こすぎの大学」や「川崎モラル」を企画運営し、川崎市を中心に地域デザインに取り組んでいる。2022年にフリーランス(KANYO DESIGN Lab.)になり、パーパスブランディング、人材育成、地域デザイン、サステナビリティの領域で活動中。

タカハシ NECは誰もが知る超大企業ですが、地域コミュニティとコラボしようという柔軟性も持ち合わせた組織なんですね。すばらしいですね。

岡本 これからのビジネスは、従来と同じやり方では通用しないという危機感があったのだと思います。何が正解かわからないけど、良い結果を出すためには、これまで経験してこなかったこともいろいろチャレンジしていこうという機運が高まっていましたね。また、タッグを組む相手が企業だと絶対に失敗できませんが、コミュニティならハードルが下がるので、挑戦としてぴったりだったのだと思います。

タカハシ 今までのやり方じゃ通用しないから新しいことをやってみよう、地域住民が面白い取り組みをしているからつながってみよう、という発想ですね。NECとこすぎの大学だからこそできたことで、他の地域や企業で同じようにできるかというと、そうではないと思います。

タカハシノリアキ
タカハシノリアキ
一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事。コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰。福岡県糸島市在住。Voicy「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」パーソナリティ。ブログ「いつも隣にITのお仕事」著者。東京工芸大学大学院非常勤講師。著書に「デジタルリスキリング入門」「ChatGPTで身につけるExcel VBA」など。

岡本 成功したポイントは、2つあると思います。1つは、仲間と一緒にやること。会社と地域をつなぐなんて、1人でやると結構なプレッシャーがかかります。でも、同じ思いを持っている仲間と一緒にやれば助け合えるし、喜怒哀楽も共にできます。

もう1つは、完璧を求めないこと。成功体験じゃなくて、今できていない不満足な状況をベースラインに設定します。「今この状態だから」というラインを握っておけば安心です。この2つを満たせば、わりと誰でもできることだと思いますよ(笑)。

以前からプロボノ活動に取り組んできたNEC

タカハシ 1人だと、自分が忙しいともうそれ以上進められなくなってしまう。仲間がいれば切り替えもできるし、気持ち的にリズムもできて鼓舞しあえますよね。ノンプロ研を運営していて思いますが、コミュニティには明確な「正解」がないんですよね。ビジネスだと成功・失敗がわかりやすいのですが。

だから「参加者が楽しく、充実してやれてればOK」みたいな感覚があるように思います。こういう空気感は、企業側にも伝わるものなんでしょうか?

岡本 まさに、地域と企業の接点ができて。NECは2013年に「社会価値創造企業への変革」をキーワードとして掲げ、事業ドメインをBtoCからBtoBにシフトしてきました。ただその結果、オフィスで働く人たちから、エンドユーザーの顔や反応が見えなくなってしまったんです。コミュニティを通じて地域住民との接点ができると、社員以外とコミュニケーションする機会ができて、発見が広がります。

NECは昔からプロボノ活動が盛んで。2010年には国内企業で初めてプロボノを始めています。その流れもあって地域活動も行われるようになり、オフィス前の公開空地を使ってイベントをやるなど、だんだん街に開かれた会社になっていきました。2020年には、社内有志で「NECプロボノ倶楽部」が発足しています。元を辿れば僕たちがきっかけをつくった結果だと思うので、すごくうれしいです。

例えば、川崎市は「子ども食堂」が盛り上がっている地域です。ラーメンの一風堂(株式会社力の源カンパニー)さんとコラボして、NECオフィス前の公開空地にキッチンカーを出していただき、子ども食堂をやりました。子どもたちはラーメンを食べられてうれしいし、そこに地域の方々が集まってくるのも楽しかったですね。

ほかにも、NECの社員が障害を持つ子どもたちと一緒にダンスしたり、年配の方がやっているパンジー体操(川崎市中原区のご当地体操)をNEC社員が動画に撮り、おしゃれに編集してYouTubeにアップしたりと、いろんな取り組みをしています。住民を巻き込んで盛り上げていこうという、いい循環が生まれていますね。

企業とコミュニティのコラボには可能性がある

タカハシ 地域住民が自分たちだけでコミュニティをやろうとしてもリソースがなくて、とくにお金や開催場所の確保に困ることが多いですよね。そこを、NECのような大企業が提供してくれるのは本当に願ってもない話だと思います。コミュニティに門戸を開くことで、企業のブランディングにもつながりますよね。

岡本 子ども食堂の運営スタッフに困りごとを聞いたら、「場所がほしい」と言われたのが印象的でした。てっきり、食材集めが大変なのかなと思っていたのですが違うそうです。NECはコロナ禍で会議室が余っていた時期もあったので、需要と供給が合っているんじゃないかと。会社と地域が持っているリソースを補完し合うことでいろんなことができるんじゃないかと思いました。

タカハシ 地域住民との活動を通じていろんな価値を生み出しています。企業とコミュニティのコラボは、実はすごく可能性がありますね。

岡本 ネックは、管理するリソースが足りないことです。企業は事業環境が厳しいときこそ新しい挑戦を始めますが、そういうときはリソース不足になりがちでもあるので、コラボをしたいけど管理する人材がいないというケースもあるようです。企業側にも責任が生まれるので、この問題は乗り越えないといけないようです。

こすぎの大学から派生して、新しいコミュニティがどんどん生まれた

タカハシ こすぎの大学の運営が始まって、11年以上経ちますね。運営する中で、課題が生まれたことはありませんでしたか?

岡本 こすぎの大学は、僕たち運営メンバーが「自分たちが住む武蔵小杉のことをもっと知りたい」というニーズから始まりました。だから集客もほとんどせず、月1の開催でゆるくやってきたんです。でも武蔵小杉は開発が激しい街で、新しい住民が年々増える一方。僕たちと同じように「街のことを知りたい、知り合いがほしい」と考えた人たちがこすぎの大学に参加してくれて、参加者はすぐに50人を超え、多いときには80人くらいになりました。

運営は「無理せずゆるくやる」がルールでしたが、せっかく80人が来てくれるなら楽しんでほしいなと、つい仕事モードが発動してしまって。組織論やマネジメント論をもとに運営した結果、一時期少し雰囲気が悪くなってしまったんです。会社で正しいとされる方法論やビジネス感覚は、コミュニティの運営には必ずしも合わないんだなと学びました。

これをきっかけに、まずは自分が楽しむこと、無理しないことを第一において、その結果みんなにも楽しんでもらうというスタンスを確立しました。

タカハシ 「主宰者が無理しない」は何より大事です。逆に、手応えを感じている部分はありますか?

岡本 手応えを感じたのは、こすぎの大学から派生した新しいコミュニティができたことです。たくさんのメンバーが参加してくれるようになった結果、「月に1回じゃなくて、複数回やってほしい」というリクエストをいただくようになりました。でも、「無理しない」という基本ルールにのっとって、月1回のペースのまま続けることにしたんです。

もっとやりたい! というニーズを吸収するために、みんながどんどん新しいコミュニティを立ち上げていきました。コミュニティの数が増えれば、参加者にとっても選択肢が広がりますよね。こうしてうねりが生まれてきたこと、運営メンバーとしてはすごくうれしかったです。

タカハシ コミュニティがコミュニティを呼び、新しいつながりが生まれるってすばらしいですね。順調に運営し続けられれば自然と欲が出てくるものですが、そこはこらえて、身の丈で楽しむのが大事だと思います。

岡本 本当に、同時多発的にたくさんのコミュニティが生まれたんです。これは地域特性もあって、日本中どこの地域でも同じようにできるわけではないと思います。武蔵小杉は再開発が著しい街なので、新しい住民が「どんな人が住んでいるんだろう? どんな街なんだろう?」と、興味の矛先を街に向けているんですよね。

タカハシ 新しい人たちがたくさん入ってくると、街に対する注目度も上がりますよね。人の出入りが多いと、地域コミュニティが活発になりやすいのかもしれません。自宅とオフィスを往復する生活の人も、何かコミュニティに入ったり同じマンションの人たちと関わることで一気に世界が広がります。

僕が住んでいる福岡県糸島市も、移住者が多い街です。昔からの街のよさと、移住者による新しい空気感がまじりあっているように思います。11月には、糸島で働く100人を起点に人同士をつなぐ「糸島市 100人カイギ」が始まりました。

岡本 そうですね。武蔵小杉も、これから時が過ぎて、街として成熟していくと、また違う姿になるのかもしれません。そのときにどうやって街を活性化させるかは、今から考えておく必要があるのかなと思います。未来の武蔵小杉も楽しみです!

>「こすぎの大学」について詳しくはこちら

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。