全国の約半数が導入「コミュニティ・スクール」はどう進化する?長野大学・早坂淳教授に聞く将来像

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今、学校の新しい可能性として注目を集めている「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」。教員と地域住民などの学校外の人材が子どもにとって最適な教育について熟議(熟慮と協議)する場を学校運営協議会と呼び、学校運営協議会を設置した学校をコミュニティ・スクールと呼びます。すでに全国の公立学校の約52.3%が設置しているこの組織によって、地域が変わりつつあるんだとか。その内容について、プランノーツ代表・タカハシノリアキさんと、教育学を専門とする長野大学社会福祉学部社会福祉学科教授の早坂 淳さんの対談から明らかにします。

※本記事は、2024年3月21日にVoicyチャンネル「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」で放送した『学びのゼミナール #6: 「コミュニティ・スクール」とそのワクワクする未来』の内容から執筆しました。

<早坂 淳さん>
長野大学 社会福祉学部 社会福祉学科教授。専門は教育方法学。勤務校の長野大学では教員養成に携わりながら、長野県コミュニティスクール・アドバイザーとして長野県内の地域や学校を対象に年間60本ほどの講演や研修会を担当している。Xのアカウントはこちら。

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「子どもがいるコミュニティ」の希少さ

タカハシ 前回、学校運営協議会(協議会)を通して教員と地域住民にいろいろな変化が生まれるというお話を伺いました。次のフェーズはどんなものでしょうか?

早坂 協議会が目指すのは「地域とともにある学校づくり」。その次のフェーズは「学校を核にした地域づくり」です。協議会の視点が、学校教育から地域全体へ広がるんですね。一部の先進的な地域では、すでに実現しつつあります。

少子高齢化で、本来担っていた役割を果たせなくなっている自治会もある中、「学校」がサステナブルな地域活性化の舞台として生かされつつあります。日本では幸いあらゆる地域に公立学校があり、未来を担う子どもたちがいます。そこにコミュニティの力をうまく生かせば、地域の核になれるはずなんですよね。

早坂 淳さん
長野大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授
早坂 淳さん
長野大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授

タカハシ 子どもたちの学びの場である学校が、地域住民のサードプレイス、そして地域活性化の中心としても再定義されているということですね。多くの大人にとっては、子どもたちと同じコミュニティに参加すること自体がレアな経験だと思います。

早坂 それこそ、学校という場所の独自性です。職場も自治会も大人ばかりで、同質性の高い集団ですから。子どもたちがいるコミュニティは、大人と違う視点が入る分、どんどん可能性が広がります。協議会に参加する子どもたちも、回を追うごとに自分の意見を持って、はっきり発言するようになるんですよ。

教育分野に限りませんが、未来に向けた話をする場には「未来の当事者」が必要です。例えば「50年先も続く、持続可能な教育を」と議論しても、その場にいるのがシニアだけでは、具体的な未来を描けないはずです。

タカハシ ビジネスも同じですね。子どもの前では、大人同士のしがらみや忖度の話なんて恥ずかしくてできません。地域や教育の未来についてフラットに話し合える場は、かなり貴重だと思います。

人とのつながりが、新しい世界を見るきっかけに

早坂 協議会は、校長がリーダーシップを発揮すればいいというものではなく、メンバ―一人ひとりの違いを生かすのが大事です。メンバー同士で考え方や視点を共有し、つながることに意義があるからです。

人は、1人では世界のごく一部にしか触れられません。その中で小さくともたくさんの幸せを感じようとすれば、人とのつながりが欠かせません。その1つの形が、サードプレイス的なコミュニティなんじゃないかと考えています。

タカハシ 地域活動にはどうしても、「負荷が大きい」「人間関係が煩雑」といったネガティブなイメージがあります。でも協議会を通して「地域とつながると、いいことがあるんだ」というポジティブなマインドに変わっていく。これは大きな変化ですよね。現役世代はもちろん、退職後のシニアもぜひ加わってほしいです。

ノンプロ研(ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会)主宰のタカハシノリアキさん
タカハシノリアキさん
ノンプロ研(ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会)主宰

早坂 人と人のつながりといえば、まさにタカハシさんの「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)が体現しています。キャリアも地域も年齢もごちゃまぜになって、みんなで学び合うコミュニティですよね。オンラインのメリットも十分に生かされています。

タカハシ ありがとうございます。残念ながら、日本は大人の学習習慣がほとんどない国です。最近「リスキリング」が注目されていますが、あまり実践には至らないようで。

例えば子ども向けのプログラミング教室が大流行していますが、親はお金を出すだけ。自分自身が学ぶ姿勢は見せません。ノンプロ研では「ファミプロ」という定期イベントがあって、大人と子どもが一緒にプログラミングに挑戦します。

早坂 子どもたちに交じって学ぶ体験なんて普段ほとんどありませんから、すごく貴重ですね。地域や職場とは違う仲間とのつながりが生まれるのも刺激的で、大きなメリットです。

課題は「メンバーの選出方法」と「予算の確保」

タカハシ 地域の核になりえる協議会ですが、課題もあるんでしょうか?

早坂 課題は2つあって、1つはメンバーの選出です。例えば否定ばかりする人や相手と対話できない人では困るので、教育委員会が厳格に選出しています。でもその結果、メンバーがPTAのリーダーや自治会役員などに偏り、多様性がなくなってしまったり、メンバー自身のモチベーションが薄れてしまう弊害があるんです。

タカハシ メンバーに選ばれたときに「ああ、仕事が増えたな」と感じてしまう環境では、協議会の理念とズレますよね。

早坂 もう1つは「予算の確保」です。協議会のメンバーは非常勤の地方公務員なので、謝礼が必要なんです。多様なメンバーをそろえたいので、ある程度の人数が必要ですが、その分予算が圧迫されてしまう……という悩みが多く聞かれます。

対策として「この指とまれ方式」を取る教育委員会もあります。固定メンバーがすべてをやるのではなく、「この日にこんなイベントをやります! 興味がある人は一緒にやりましょう」と声をかけて、その都度メンバーを募集する形です。

タカハシ コストを抑えつつ多様性を維持するのが、課題の一つですね。

研究者自身が当事者になることで、初めて見えるものがある

タカハシ 教育学の研究にはいろんなアプローチがありますよね。早坂さんは、研究者としてどういうスタンスを取っていますか?

早坂 いちばん大事にしているのは「自分が当事者になる(アクションリサーチ)」ことです。私の研究対象である教育現場は毎日成長し続けていますから、研究者自身が触媒のようにその中に入り込んで、変化を体感する必要があります。組織の中に入ってこそ、現場のよさも課題も見えてきますし、そのプロセスを研究することに意味があると考えています。

もちろん、組織の中に完全に埋没してしまうと客観性がなくなるので、バランスも大事です。いずれにせよ、現場を外から眺めて、中の事情をろくに知らないまま論文を書くことは絶対にしないと決めています。

もう1つは「現場をベースに考える」ことです。まずは現場を動かしている理論や慣習を知り、それが社会のシステムや法律とどう噛み合うか、合わない場合は何が原因なのか考えるという順序です。システムをむりやり現場に当てはめても、答えは見えません。

タカハシ 早坂さんは、研究者でありながら実践者でもあるんですね。地域や学校にアカデミックな価値観が持ち込まれ、学校教育が深まっていく。その変化はとても面白そうです。

早坂 教育方法学は、学際的な学問です。まるで社会の縮図のように、心理学者や社会学者、哲学者、経済学者などが入り混じる分野。考え方も倫理観もバラバラな人が集まるからこそ、面白さも難しさも深いんだと考えます。

今は、現場の実践者として地域に根ざしつつ研究する学者を増やすことが私の目標です。実際に今、信州大学とコラボレーションしてコーディネーターの養成講座をしています。こういう取り組みが、全国各地に広まっていくといいなと考えています。

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。