【インタビュー第2弾】うまくいくコミュニティには共通点がある。法政大学大学院・石山恒貴さんに聞く、運営のコツ

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地域活動のため、スキルアップのため、憩いのため……目的も性質も規模も多様な、たくさんのコミュニティがあります。でも、うまくいっているコミュニティとそうでないコミュニティがあるのも事実。では、両者にはどんな違いがあるのでしょうか。法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴(いしやまのぶたか)さんに、具体的な事例を交えて教えていただきました。

「みんなが主役でいられる」ことが絶対条件

――全国各地、いろいろなコミュニティを研究されてきた石山先生。成功している組織にはどんな特徴がありますか?

まずは「参加者全員が主役になっていること」ですね。1人ひとりが、自分がそのコミュニティの一員で、何かしらの力でみんなの役に立てているのだと実感できていると、だいたいうまくいきます。逆に、常連が必要以上にでしゃばったり、少人数で内輪ノリをしたり、主宰が「こうだ」と参加者の意見も聞かずにカリスマのトップダウンでものごとを進めてしまったりすると、うまくいきません。主宰や創始者のスタンスは、必ずそのコミュニティの雰囲気に表れるものです。

ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会(以下、ノンプロ研)はまさにそれを体現しています。常連が威張らないし(笑)、仕組みとして人の入れ替わりが発生することが前提なので、役割が特定の人に集中することなく運営されています。例えば、講座の講師は1人2回までというルールがあるそうで。

石山恒貴さん
石山 恒貴さん(法政大学大学院 政策創造研究科 教授)
博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理、タレントマネジメント等が研究領域。日本労務学会副会長、人材育成学会常任理事等。

――人に教えるといういちばん有効な勉強方法を、誰かが独占することができない仕組みになっていますね。

はい。主宰のタカハシさんが「一人に多くを任せすぎない」という考えのもとに、絶妙な采配をしているんだろうと思います。

タカハシさんもそうですが、うまくいっているコミュニティの主宰はみんな口をそろえて、「参加者のみなさんが自由に楽しんでいます。いろいろなことが、私が知らないうちに進んでいきます」と言います(笑)。自由度と多様性のあるコミュニティが、結果的に広く支持されて、長く続いていくのでしょう。

ただ、コミュニティはたくさんの要素が複合的に絡み合ってできるものです。例えばノンプロ研なら、タカハシさんの性格、参加者の入れ替わりがある仕組み、参加者が自主的に進めていくシステムなど。それらの特徴がうまく噛み合った結果の成功なので、ほかのコミュニティで表面的に真似ても、そのまま再現することはできないと思います。

――コミュニティには、そこ固有のよさがあるわけですね。

ノンプロ研の強みとして僕が確信しているのが、タカハシさんの真摯さです。以前タカハシさんが「ノンプロ研の参加者が、得たスキルを職場で発揮しようとすると、周りから迫害されてしまう……」と本気で悩んでいたことがありました。せっかくプログラミングを学んでも、そのスキルを隠さなきゃいけない“隠れキリシタン”状態であると。これ自体は“あるある”で、越境学習者は迫害されるのが常です。そこには葛藤もあって然るべきですが、でも決してポジティブな現象ではありません。

これに対して、タカハシさんの立場からは「スキルを生かすかどうかは、職場次第!」と放り投げることだってできるのに、寄り添って真剣に考えている姿に感銘を受けました。ノンプロ研がうまくいくのは、タカハシさんがこうして全員に真摯に向き合っているからでしょう。この点も成功の理由だと思います。

――うまくいかないケースでは、一部の常連が固定化してしまって新しい人が入りにくくなったり、スキルの高さでマウントを取る人が出たり……。いろいろな壁がありそうです。

それを解決している取り組みに「100人カイギ」というものがあります。地域で働く人100人に集まってもらい、毎回ゲスト5人が発表をするという面白い取り組みで、発表の内容を肴にお酒を飲んだりするんですが、20回やってゲストが100人に達したら解散するルールなんです。100人100通りの生き方を知ったら解散という清々しいルールを敷いて、サードプレイスが陥りがちな問題を解決している例です。

特定の地域に密着するか、オンラインで開放性を高めるか

――サードプレイスを持つと、年代や地域が異なる人々との出会いがあります。

コミュニティによりますが、多世代、多地域という特徴がよくみられますね。こうした活動に年齢はあまり関係ないので、10代も70代も同じように楽しめる場がベストでしょう。コミュニティの分析においては、物理的な地域性を重視するのか、それともオンラインの利便性を重視するのか、という2軸で考える手法もあります。

特定の地域性を重視したコミュニティの1つが、神奈川県茅ヶ崎市で2017年に誕生したコワーキングスペース「チガラボ」。ここでは、参加者が自分の好きなテーマを選んでイベントをするルール「たくらみ」があります。テーマは何でもOK。例えばワインをテーマに選んだら、情報収集のために茅ヶ崎市内の農場の方、ワイナリーの方々などと自然に知り合うでしょう。そうやってどんどん、茅ヶ崎という地域の方々と交流が深まるという面白さがあります。茅ヶ崎は海も山も近くて自然豊かな街ですが、都心まで電車で通勤圏内です。都内で暮らしながら参加することも可能です。

チガラボにはもう1つ面白い点があって、「My本棚」が常設されています。1人ひとりにスペースが割り当てられ、自分の棚には好きな本やお酒などを置いておけます。それが自分を紹介するツールになり、好きなものを通じてほかの人と交流できる仕組みです。

――コミュニティの運営に関しては、コロナ禍で変わった部分もあるのでしょうか。

はい。僕は長らく地域密着型のコミュニティを研究してきましたが、コロナ禍でオンラインの要素を取り入れたところが多くあります。その結果、地域性とオンラインのいいところ取りをする「ハイブリッド型」が生まれました。「オンライン開催になったことで、全国各地から参加者が来てくれるようになった!」という喜びの声をいろいろなコミュニティで聞きます。

まさに、ノンプロ研はその一例ですね。今はオンラインが中心で、特定の地域に偏らずに運営されています。主宰のタカハシさんが福岡県糸島市に移住したのはその象徴ですよね。北海道や大阪から参加している方も多いと聞きます。

承認欲求を「健全に満たし合う」のはすばらしいこと

――近年は、SNSやリモートワークが浸透した影響で、承認欲求が満たされにくくなっているというお話を伺いました。

承認欲求にはいい面も悪い面もあります。典型的な悪い例が、毎日夜遅くまでオフィスにいることで承認欲求を満たしている管理職。職場だけで承認欲求を満たしてきた人にありがちです(笑)。職場のような濃密な関係性のコミュニティ内で承認欲求を満たそうとすると、自分も周りも居心地が悪くなると思います。マウントを取り合うようになってしまったり、上下関係が生まれたり、新しい参加者が疎外感を持ってしまったり。

その点ノンプロ研は、ちょうどいいバランスで承認欲求を満たし合う文化がありますね。例えば、プログラミングのわからない部分があったとき、Slackで質問すると誰かしらが教えてくれます。これで教わる側が助かるのはもちろん、教える側も、いい回答をして感謝されたいという欲を満たせる(笑)。僕のゼミでも同じように、ゼミ生が互いに教え合い、自主的に勉強会を開いています。こうして承認欲求が健全に満たされるのはすばらしいことで、こんなやり方もあるんだな、と気づかされました。

ノンプロ研ではもう1つ、今起きていることをTwitterでつぶやく習慣がありますね。みんなが場の状況をリアルタイムに共有することによって、相手の行動をプラスに捉えて認め合っているように見えます。つぶやきという個人のアウトプットが、結果的に他の人との関係性にもプラスの効果を生んでいます。

――ノンプロ研は「学習コミュニティ」ですが、それ以外の要素もいろいろ含まれているんですね。

そう思います。例えば、ノンプロ研にはさまざまなスピンオフ活動があるそうです。それを「学習」と捉えるか「趣味」や「興味のあることで楽しむ」と捉えるかは人次第でしょう。

僕が越境学習の講演をすると、よく「自発的に学習しろ、だなんて」とディスられることがありますが(笑)。でも、大学院もノンプロ研も、自分の興味関心に基づいて好きに考えながら意見交換する活動と考えると、とても楽しいですよね。考えも深まるし、家庭や職場とは異なる、多様な人と交流することができます。

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。