アプリ制作の技術同人誌を出版!北海道の畑作農家・大崎真裕さんが飛び込んだ、新しい世界

  • ブックマーク
アプリ制作の技術同人誌を出版!北海道の畑作農家・大崎真裕さんが飛び込んだ、新しい世界

北海道帯広市で、農家を経営している大崎真裕さん。30ha(東京ドーム約6個分!)という広大な畑で、じゃがいもや小麦、てん菜、豆、長芋を栽培しています。そんな大崎さん、農作業の効率化を図ろうと、2019年からプログラミングの学習をスタート。今では、スマホアプリ「じゃがいも収穫管理アプリ」を自作し、技術同人誌を出版するまでになりました。大崎さんが「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(通称、ノンプロ研)で見つけた、新しい世界とは?

じゃがいも収穫管理アプリで重視したのは、使いやすいUI

――大崎さんが作成された「じゃがいも収穫管理アプリ」って、どういうものなのでしょうか?

収穫した野菜を入れるコンテナ(以下、ボックスと表記)の状態を、QRコードを使ってスマホでかんたんに記録できるアプリです。畑から収穫したじゃがいもは、ボックスに入れたまま数日間乾かしてから、箱詰めへと進みます。帯広では例年8月頭から9月末頃に収穫期を迎えますが、この時期は収穫作業のほか、収穫量の把握や進捗管理も重要な仕事です。

以前はすべて紙に記録していましたから管理も計算も煩雑で、収穫作業後の疲れ切った体ではミスが起きやすいうえ、そもそも記録し忘れることもある……という状況。これを改善したいと思ったのが、アプリの企画を立てたきっかけです。

――シンプルでわかりやすい画面ですね。どうやって開発したんですか?

アプリ開発用ツールのGlideと、GAS(Google Apps Script)を使ってつくりました。Glideはノーコードツールで、データから自動でスマホアプリをつくれますし、デザインをする必要がないのでハードルが低いんです。アプリの構想を練り始めたのは、2021年初頭。アプリの骨格は2週間ほどで完成しました。

アプリ制作の技術同人誌を出版!北海道の畑作農家・大崎真裕さんが飛び込んだ、新しい世界
アプリを開くと、野菜を入れるボックスの使用状況や集計結果を確認できます。

――いちばん重視したのはどの点ですか?

農作業をしながら使うアプリなので、僕はとにかく「スマホで使いやすいUI」を追究しました。GASで事務処理を効率化するのとは、まったく違う視点が必要でしたね。まずはスモールスタートで、徐々にアップデートしていこうと考えました。

例えれば、DIYをする感覚に近いです。一度設計して棚をつくってみて、合わない箇所があれば手直しして、うまくハマるように改造していくものづくりは、アプリ開発と同じですね。この楽しさを、ぜひ多くの人に味わってほしいです!

プログラミングを農業に役立てられたら、何か変わるかもしれない

――大崎さんがプログラミングを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

僕はもともとパソコンにさわるのが好きで。プログラミングにも興味を持ってはいたものの、日々の忙しさもあって、なかなか手を出せずにいたんです。

そんな中で2019年ごろ、仕事について悩むことがありました。自分は農業に向いていないんじゃないかとまで思ったことも……。そこで、好きなことの延長でプログラミングに挑戦し、何かしら農業に役立てられたら、新しい道が開けるかもしれないと思ったんです。

じゃがいも収穫管理アプリに使用する、自作QRラベル
QRコードをスマホで読み取ることで、アプリ上でボックスの状態が「満タン」「空」と切り替わる仕組みです。

――最近は、スマート農業が話題ですよね。

はい。農作業の現場にもICT製品が導入されてきています。例えばGPSを使ったトラクターの自動運転や、IoTによる畑のモニタリング、農業用ドローンなど。メディアで見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。

こういった製品の普及は進んで、確かに便利になっています。しかし身の回りに目を向けると、農業はデジタル化があまり進んでおらず、紙やFAXの文化がいまだに根強いんです。

こうした農業の現状を目の当たりにして、僕は「自分がプログラミングを学んでITの原理原則を理解すれば、使いやすいツールを作れるかもしれない」と考えるようになりました。

――パソコンが好きという大崎さん。プログラミングの勉強は順調にいきましたか?

いえ、初めはメンターに教わりながらWebプログラミングの学習を進めたのですが、ゴールまでの道のりが遠すぎて、一度挫折してしまいました。それからは、少し方向性を変えてGASを勉強してみたり、気の赴くままに独学していました。

ある日、たまたま高橋さんのブログ『いつも隣にITのお仕事』(『隣IT』)にたどり着いて、ノンプロ研の存在を知ったんです。これは面白そうだと思い、すぐにノンプロ研に入会。いちばん興味があったPython(パイソン)の初級講座を受けました。

ノンプロ研で体感した「教えることは二度学ぶこと」

北海道の畑作農家・大崎真裕さんのじゃがいも収穫風景

――ノンプロ研に入ってみて、どうでしたか?

すぐに、ノンプロ研にハマりました! メンバーの皆さんが異口同音に言いますが、ノンプロ研は「学習への熱意にあふれている」「惜しみなく教え合う、giveの精神がある」組織なのは間違いありません。僕は、PythonだけでなくGASもノンプロ研で1から学び直そうと、GASの初級、中級講座を受講しました。

もう1つノンプロ研のよさを挙げると、多様な価値観に触れられる点です。まったく違う仕事をしている人たちが「プログラミング」という共通項で集まっている集団ですから、雑談や懇親会では異業種の話を教えてもらえて刺激になります。例えばPythonの講座には、スポーツ系のデータアナリストの方が複数参加していました。ノンプロ研では、技術以外にもいろんな学びがあります。

――大崎さんは、プログラミングを教える役割もされているそうですね。

Python講座のTA(Teaching Assistant)を担当したことで、自分のノウハウを言語化する難しさと大切さを学びました。また、二人一組になって交代でプログラミングをする「ペアプロ」に参加したのもいい経験でした。人と一緒に1つのものを作り上げる面白さを知りました。

ノンプロ研では「教えることは二度学ぶこと」と言い、自分が学んだ内容を仲間に教えることで何度でも学びを深められます! それを肌で実感できる貴重な経験をさせてもらいました。

――そこから、どうやって「じゃがいも収穫管理アプリ」の制作につながるのでしょうか。

ノンプロ研の仲間と話していたら、ノーコードツールでアプリをつくっている人がいると知って。これこそ僕がやりたいことだ! と思い、チャレンジすることにしたんです。こういうアイデアは、人との関わりの中で生まれるものですね。

ノンプロ研「技術ライティング講座」の受講が大きな転機に

――アプリをつくってみて、いかがでしたか?

つくづく感じたのは、「僕のようなノンプログラマーの場合、ツールやアプリをつくること自体よりも、その過程で得た学びの発信にこそ価値がある」ということです。アウトプットを重視するという、ノンプロ研の文化に影響されたのかもしれません。

そこで2021年5月から、ノンプロ研の「技術ライティング講座」を受けることに。技術ライティング講座は、プログラミング学習の成果を、TwitterなどのSNSやブログ、最終的には技術書のかたちでアウトプットするための講座です。アウトプットの方法を知ることで、自分の学習効果を高め、さらに今後学ぶ人たちの参考にもなるんです。今振り返ると、これが僕の転機になりました!

――そうして、同人誌の出版に至るわけですね。

技術ライティング講座の最終課題が、「技術同人誌の企画を立てる」というもので……。せっかくなので思い入れがあるじゃがいも収穫管理アプリをテーマにしようと、アプリのつくり方を紹介する同人誌の企画を立てました。かなり苦労して、実際に企画を提出できたのは2022年5月、講座の受講スタートから約1年後のことでした。

先日の「技術書典」で同人誌を売り、達成感がありました。SNSを見ていると、農業従事者でプログラミングに興味を持っている人が相当数いるんです。そういう方々に届いたらいいなと思います。

アプリ制作の技術同人誌を出版!北海道の畑作農家・大崎真裕さんが飛び込んだ、新しい世界
大崎さんの同人誌がこちら。図や写真が多く、誰でもスムーズに理解できる構成です。

――技術ライティング講座の中で、役立ったことがあれば教えてください。

「ターゲットは、過去の自分に設定するといい」と教わったのが、すごく役立ちました。自分がプログラミングの学習をする中で、どこにどうつまづいたか、どんな遠回りをしてきたか振り返り、それを防げるような情報を発信できれば、新しい価値になるでしょう。

例えば僕は、プログラミングの学習を始めてから農業に生かせるようになるまで、約3年かかりました。その間の試行錯誤を1冊の本にして伝えられれば、他の方が同じ遠回りをしなくて済みますよね。過去の僕に「何を学べばいいかわからないなら、ノンプロ研に入るといいよ!」と教えてあげたいです(笑)。

――情報発信して感じることはありますか?

僕が発信したことに対していろんな人から反応をもらえると、そこを起点に気づきを得ることが多くあります農業にデジタル化をもっと取り入れられれば、仕事の効率化や見える化が進むはず。その方法をもっと学びたいし、学んだことは伝えるべきだと思うんです。

最近は、ノンプロ研でコーチングも受けています。自分のやりたいことや方向性を言語化する経験は、同人誌の企画づくりにも役立ちました。自分の頭の中にとどめず、周りの人に話すことって大事ですよね。ノンプロ研の仲間には、技術以外にもいろんな面で助けられています。

  • ブックマーク

この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。