2024年8月、『ChatGPTで身につけるExcel VBA』を上梓したタカハシノリアキさん。編集を担当したマイナビ出版の伊佐さんと特別対談を行いました。初心者が、ChatGPTを使ってVBAを学ぶという新しい視点の本は、どうやって生まれたのでしょうか。
※本記事は、2024年8月6日にVoicyチャンネル「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」で行われた生放送の内容から制作しています。
ChatGPTの登場で「初心者のプログラミング学習が変わる」と思った
タカハシ 今回、2024年1月ごろに伊佐さんから企画をいただいて、書籍づくりがスタートしました。校了までの約8ヶ月間すごくていねいに伴走していただいて、なんとか書き上げられました。伊佐さんは、拙著『パーフェクトExcel VBA』をご覧になって声をかけてくださったんですよね。うれしかったです。
伊佐 私はこれまでもプログラミング言語の解説書籍を作ってきましたが、数年前にChatGPTが登場したころから「あ、これはプログラミング学習に大きな影響を与えるだろうな」と感じていました。
普段エンジニアさんとお話をすると、みなさん決まって「ChatGPTが出てきてから、仕事の仕方がガラッと変わった」とおっしゃいます。それで、ChatGPTを使えばプログラミング学習も変わるんじゃないかと思ったんです。編集者として、なるべく早めに初心者向けの解説本を作りたい、それが読者のためになるだろうと考えるようになりました。
「初心者向け、VBA学習、ChatGPTを活用」というキーワードをもとにふさわしい著者さんを探したところ、タカハシさんにたどり着きました。ただ実をいうと、今回の企画は受けてもらえないかもしれないな……と思っていたんです。
タカハシ 初回の打ち合わせで「やりたいです!」と言ったら、伊佐さんが意外そうな顔をされていたの、今でも覚えています(笑)。
伊佐 『パーフェクトExcel VBA』は、VBA学習について網羅的にまとめられた本ですよね。タカハシさんは「VBAは全部書ききった!」というお気持ちかもしれないなと思って。だからなおさら、タカハシさんに受けていただけてうれしかったです。
VBAの学習法を、1から捉え直してみたいと思った
伊佐 私が企画をお持ちした当時、タカハシさんはどう受け取られましたか?
タカハシ 当時の状況としては2点あって。去年『デジタルリスキリング入門』という本を書いてかなりのカロリーを使ったので、今年はゆっくりしようと思っていたんです(笑)。「リスキリング」という概念は僕の想定よりも注目度が低く、まだ社会に大きなインパクトを与えるまでには至っていないということもつくづく実感していたタイミングでした。
もう1つは、VBA学習の書籍はすでにたくさんあり、学習方法も議論し尽くされています。デフォルトの方法論が確立されつつある中で新しいものを書くなら、その意味をちゃんと考えたいと思いました。
ただ、伊佐さんの企画は生成AIが軸になっていて。ChatGPTが生まれた今、VBAの学習を1から捉え直すいい機会なので、ぜひ解説を書いてみたいなと思いました。とくに、初心者向けの情報を届けられることには大きな意義があると思ったんです。
伊佐 決意していただけて、とてもうれしいです。スケジュール的には、けっこう急ぎで書いていただくことになりましたが(笑)。
「ChatGPTをフル活用する」解説の工夫
タカハシ ただ、全体の構成を考えるのはかなり苦労しました。具体的には、「ChatGPTをどれだけ使うか?」が難しくて。類書でも、ChatGPTを使ってVBAを学ぶ趣旨のものは複数ありました。でも、どれも「これまでの学び方を踏襲して、おまけ的にChatGPTも使ってみる」というレベル感で。
僕は、せっかく書くならもっとChatGPTをガンガン使い倒す学び方を編み出したいなと思いました。一般的に、ノンプログラマーの学習はインプット過多になりがちです。でも、ChatGPTを使えば自然に、能動的にアウトプットしながら学習することになるので、この特徴を活用しない手はないと思いました。
伊佐 基本的なVBA学習の流れに、ChatGPTを少しだけ組み込むやり方が定番ですよね。私も最初に思いついたのはその構成でした。タカハシさんが提案してくれた構成は、それとは全然違う新しいChatGPTの使い方で新鮮でしたし、書籍の構成やアプローチをこれだけ深く考えていただけてうれしかったです。
タカハシ 僕がいちばん苦労したのは、ChatGPTを使いながら、かつ道筋が外れないようにおおまかなレールを敷く部分です。ChatGPTに何か質問すると、質問文は同じでも毎回違う回答が返ってきます。だから、読者がChatGPTを使いながら、本と同じ流れを再現できるかわからないというのがいちばんの懸念でした。
どうしたら道筋が外れないように、書籍を通じてChatGPTを使えるか。試行錯誤した結果辿り着いたのが、「最初に、ChatGPTにサンプルコードを提示する」というやり方でした。これでうまく道筋がたったときは「新しい学習方法を1つ確立したぞ!」と手応えを感じましたね。それをベースに、全体の構成を考えていきました。
伊佐 タカハシさんが発明した「サンプルコードファースト」のやり方は、どの類書とも違う学習方法でした。私の想像を超えていたので、最初はどう咀嚼していいかわからず、このやり方で最後までいけるのかな? と懸念もありました。
タカハシ 伊佐さんに「この構成でいきましょう!」と提案したときは正直、最後まで貫き通せるかどうか、半々かなと思っていました(笑)。「いけるだろう」が半分、「途中でひっくり返すかも?」が半分(笑)。なにしろ、僕もやってみないとわからないことが多くて……でも、一度書き始めるとサクサク進みました。
ChatGPTを使った分、執筆がスピーディーに進んだ
伊佐 ご執筆に入ってからは、すごくスムーズに書き進めていただきましたね。ChatGPTとVBAそれぞれの説明が入る分、ページ数が多めになるかなと思っていたら、意外と手に取りやすいボリュームにおさまりました。
タカハシ 書き始めたら早かったです。これは完全にAIのパワーですね。ChatGPTが説明できることはすべて説明してもらうことにして、正しくないときだけ僕が訂正するかたちを取ったので、結果的に僕が文章を書く量が圧縮されたんです。ChatGPTとの会話は改ざんせず、すべてそのまま掲載しています。
伊佐 ChatGPTを使っていると、想像通りの答えが返ってこなかったり、回答によってChatGPTのテンションや深さが違っていたりしますよね。でもタカハシさんの原稿では比較的ChatGPTの回答が安定していたので、この回答を得るまで相当の生成数が発生しているのではないかと心配していました。
タカハシ ChatGPTからの回答が間違っていたり使えないクオリティのときは、質問文を変えたり指示を変えたりして再生成しました。全体を通すと、全部自分で書くよりも早かったと思います。
ただ、ChatGPTの回答が間違っていると「おお、きたきた!」という手応えも感じるんです(笑)。読者のみなさんにも、ChatGPTを使いながら「ここはAIも間違いやすいんだな」と探り当てる感覚を味わっていただけたらと思います。
独自に編み出した「ノンプロ研」の学習方法がベースに
伊佐 本書の基本的な考え方は、タカハシさんが普段「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(以下、ノンプロ研)で実践されている学習方法がベースになっていますよね。インプットとアウトプットのバランスとか、学習の手順とか。
これらは全部、タカハシさんにしか書けない独自の発想です。原稿の中にこれが出てきたとき、「よし、この本は必ずいいものになる!」と確信しました。
タカハシ 確かに、僕だからこそ読者に自信を持ってお勧めできる部分ですね。ChatGPTを使って何か学習しようとしても「ChatGPTとの会話、なんだか噛み合わないな……」とつまずいてしまう人は多いと思います。ChatGPTへの質問も、返ってくる返事も自然言語なので、自由度が高すぎるんですよね。
ChatGPTとの会話にもコツがあります。英語学習と同じで、一定の型を繰り返すうちにうまくコミュニケーションするセンスを磨けるので、初心者の方にはまずトライしてみてほしいなと思います。