職場でVBA講座を開催。「ノンプログラマーの国家公務員」中島敬太郎さんが、プログラミングを学ぶ理由

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職場でVBA講座を開催。「ノンプログラマーの国家公務員」中島敬太郎さんが、プログラミングを学ぶ理由

現在、内閣府で働いている中島敬太郎さん。国家公務員として長年キャリアを積み重ねてきた中島さんが、プログラミングを本格的に学びはじめたのはつい昨年のこと。「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(通称、ノンプロ研)の講座を受けるも「レベルが高くて、まったく理解できなかった」中島さんが、今では職場でVBA講座を開催するまでになりました。なぜここまで続けてこられたのか? お話を聞きました。

VBA講座に参加した若手職員に、明らかな変化が

――中島さんの日常業務の中で、プログラミングが生きている部分はどこですか?

いちばんは、データの集計です。典型的な例が、都道府県ごとに出された47個の数値をエクセルで集計するもの。手動で行うとヒューマンエラーが起きがちなうえ、量が多いため若手職員のリソースを割いています。入力後の確認も一苦労で、データを結合した後に紙で突合しているケースもあります。これは、VBA(Visual Basic for Applications)を使って正しいコード作成さえすれば、ずっと効率よく作業できるうえ、ミスもなくなります。

2つ目が、メールの管理です。僕は先日、VBAを使って、ボタンを1つ押せば送信メールの宛先欄を正しく入力できるツールを作りました。農林水産省から内閣府に異動した直後、2日くらいで仕上げたものです。私の職場ではこれまで、メールに返信する際に、都度複数の宛先を選んだり、同じ案件のメール履歴を貼り付けるといった煩雑な作業が必要で、かなりの手間になっていました。以前もExcelで似たツールを作ったことはありましたが、利便性はそれほど高くありませんでした。

――さらに中島さんは最近、職場でVBA講座を開催されていると聞きました。

内閣府で業務改善を担当している職員が、僕がVBAでツールを作っているのを知り、「一度話を聞きたい!」と声をかけてきたのが始まりです。1年くらいVBAを勉強すればできるようになると伝えたところ、「VBAの勉強会をしてほしい!」という要望を受けまして。若手にスキルを得てもらうのは大歓迎ですので、「毎回、宿題をやること」、「卒業LTを発表すること」を条件に、開催することを決めました。

スタートは2022年8月上旬、週1で開催しています。職場の掲示板で募集したところ、他省庁や民間企業からの出向者の若手が集まってくれて、みんな積極的に質問してくるし、熱意をもって取り組んでいます。また、今回の講座ではノンプロ研で学習したインストラクションデザイン(最大の効果を得られるよう、学習の方法や内容を設計すること)の手法を活用し、実施しています。受講生たちに対してはインストラクションデザインという固有名詞を出してはいないのですけど、講座自体に熱量を感じるので、インストラクションデザインの効果は実感しています。わかったふりをして誤魔化すこともできる中で、真摯に取り組んでくれていると感じます。9月末には最終発表会を予定しているので、楽しみです!

――VBA講座によって、職場に起きた変化はありますか?

参加者でコミュニティが出来上がり、VBAについても日常業務についても相談しあうようになりました。業務が円滑に回っている要因の1つであり、素晴らしい変化だと思います。同期として一緒にVBAを勉強していることで、仲間意識が生まれ、相談事をする心理的ハードルが下がったのでしょう。内閣府は出向者が多く、異なる文化を持っているメンバーが集まっている組織。その中で一体感が生まれたのは、この講座を開いたからこそだと感じます。

膨大な量のデータ整形をこなすため、VBAの勉強を決意

職場でVBA講座を開催。「ノンプログラマーの国家公務員」中島敬太郎さんが、プログラミングを学ぶ理由
勉強会の様子。熱意にあふれた職員が集まっています。

――中島さんが、プログラミングにご興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。

私の業務は事務作業が多いので、Excelの処理スピードを上げ、業務効率を改善したいと思ったことです。5〜6年前にも、VBAを独学で学び、セミナーを受けたことがありました。でも、なにしろ基礎がすっぽり抜け落ちていたので応用がきかず、実務ではまったく使えませんでした。当時は一緒にやる仲間もおらず、そのままやめてしまいました。

そんな中、2020年の夏ごろ、職員の業務量分析をすることになりました。しかし手元に渡されたデータそのままでは分析ができず、データ整形が必要な状態。そしてとにかく量が膨大で、10万レコードという手作業では気の遠くなるようなボリュームでした。これをこなすため、VBAを学び直そうと決意したのが2021年初頭のことでした。

まずは、YouTubeを見ながら独学で勉強。ほどなくして、目的だったデータ整形をできるようになりました。今見返すと、すごく冗長なコードで処理も遅かったんですが(笑)、当時は正しく動けばそれで十分だと思いました。そんなある日ふと、セミナーを受けたいと思って「エクセル VBA 研修」で検索し、出てきたのがノンプロ研の講座申し込みページだったんです。まあ、とりあえずやってみよう! という軽い気持ちで申し込みました。

――ノンプロ研に入ってみて、どうでしたか?

VBAのことはある程度わかっていたつもりで、いきなり中級講座に入りました。でも、ノンプロ研の「中級」ってすごくレベルが高いんですよ。周りもハイレベルな“つよつよ勢”ばかりで。内容をまったく理解できないまま終わってしまいました。

これじゃまずいと思って、初級レベルからやり直すことに。ノンプロ研メンバーに公開されている(!)、初級講座の資料を見ながら再スタートしました。自分でコードを書いてみて、わからないことはSlackに投げ、上級者のみなさんに教えてもらうことをひたすら繰り返しました。いつもていねいに教えてもらえるので、疑問が1つずつつぶれていきました。

上級者と組む「ペアプロ」への参加が突破口になった

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――ご自身で「うまくできるようになった!」と思ったのは、いつのことでしたか?

2022年1月、「ペアプロ」に参加したときです。ペアプロは、二人一組で交代でプログラミングをするというもの。僕は上級者の方と組ませてもらい、予習が8時間ほど、実演が2時間、合計10時間を2回やりました。

ほかのメンバーみんなの前でコードを書く仕組みなので、それはそれは緊張します(笑)。でも、落ち着いてペアの方の指示通りにやってみたら、いつの間にか実務で使えるレベルのツールを作れるようになっていたんです。ペアプロを経てすごく上達しましたし、自信がつきました。また、自分1人じゃ到底思いつかなかった発想を知ったり、エラーが出た原因がわかったり……参加してみないとわからないことがたくさんあると、改めて思いました。

――上級者と初級者が同じ場を共有するというのはノンプロ研の特徴であり、よさですね。

はい。驚いたのが、僕がSlackで超上級者の方々(通称、“神々”)に質問すると、それを起点に神々たちがディスカッションを始めることです。毎週土曜には、5~6人の神々が集まる「VBAナイト」が開催されていて、そこで交わされる会話を聞いているだけでも勉強になります。

長く継続するコミュニティには、大きな価値がある

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勉強会は「VBA関数とは何か?」の基礎から。

――VBAのほかにも、勉強している言語はありますか?

GAS(Google Apps Script)の中級講座にも参加しています。僕の職場ではGASを使うことはありませんが、GASを勉強することで、VBAを学びながら「GASだったらこうするのにな」と、新しい発想が生まれるんです。GASを学ぶ人は多いので、ノンプロ研のみなさんと会話するときの共通言語としてもGASが便利。シナジー効果があるなと実感しています。9月からはPythonにも挑戦したいと思います。

――最近は、コーチングにも挑戦されていると聞きました。

ノンプロ研で、コーチを目指している方の練習台として声をかけてもらったのが始まりです。参加してみると、これは業務にも生きるなと思いました。同僚との1on1を充実させるのにピッタリのスキルだなと。それからコーチングを体系的に学び、実践を重ねてきました。2022年のうちには、認定コーチになる試験を受けたいと思います!

――プログラミングのスキルを得る以外にも、ノンプロ研のメリットはいろいろあるんですね。

はい! 何よりも、ほかの職種の人と交流できるのは貴重な経験ですね。IT系の書籍の著者もいれば、パラレルキャリアを実践している方もいらっしゃいます。異業種の方々と情報交換したり、一緒に「達人に学ぶDB設計徹底指南書」(翔泳社、2012)という書籍を読んでデータ活用の方法について議論するのは刺激的でした。一時的な集いではなく長く継続するコミュニティは珍しいですし、大きな価値があると思います。

>>ノンプロ研に興味がある方は、こちらから!

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。