書評『リスキリングは経営課題〜日本企業の「学びとキャリア」考』

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書評『リスキリングは経営課題〜日本企業の「学びとキャリア」考』

みなさん、おはようございます!タカハシ(@ntakahashi0505)です。

こちらの記事は、タカハシが音声メディアVoicyの「スキルアップラジオ」にて放送した内容から、ピックアップしてお届けします!

今回のテーマは、書評『リスキリングは経営課題〜日本企業の「学びとキャリア」考』です。

なお、以下で実際にお聴きいただくこともできます!

では、よろしくお願いいたします!

リスキリングは経営課題

今日は書評をお送りします。

紹介する書籍は「リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考」です。
2023年3月に光文社から発売されています。

https://amzn.to/3NeznGF

著者は小林祐児さんで、パーソル総合研究所・上席主任研究員をされている方です。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っていらっしゃいます。

今のリスキリングブームのこれからを考える

こちらの書籍は、様々なデータをふんだんに用いて、今のリスキリングブームを正すべきところは正して、企業の人事の方や経営者がどのように従業員のリスキリングを推進すればいいかという指針を示している書籍です。

そのデータとして中心に用いられているのは、2022年のパーソル総合研究所による「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」です。

この調査については、スキルアップラジオでも紹介しています。

本書の構成

本書の構成としては全7章プラス終章という形です。

「工場モデル」は上手くいかない

第1章は導入として 「リスキリング」の流行とその課題と題して、リスキリングブームが起きた理由と、それに対する日本の現状と、このままではリスキリングはうまくいかないだろうという危機感を提起しています。

今、企業が進めようとしているリスキリングの方法を「工場モデル」と名付けていてこれが良くないという話をしています。

「工場モデル」とは何かというと、「未来に必要なスキルを明確化する」→「従業員にスキルを身につける機会を提供する」→「ジョブ(ポスト)とマッチングする」という線的なモデルでリスキリングを進めるものを呼んでいます。

これでは上手くいかないよという話をしています。

個人にフォーカスしすぎ

工場モデルの問題点として、その進め方だと個人にフォーカスしすぎていて、学ぶ人は学ぶし、そうでない人は学ばないという結果になるだろうと言っています。

またスキルの明確化は、たとえばDXのようなイノベーションを起こすスキルでいうと明確化できないだろうと言っています。

そして市場が求めるスキル需要はどんどんスピーディに変化するのでそれに合わせて事前に計画するのは難しいと言っています。

スキルの獲得だけしても発揮しなければ意味がないと言っています。

このような理由から工場モデルは上手く行かないと言っています。

日本人の学ばなさと組織の変わらなさ

ではどうすればいいかという話なんですが、そのヒントを得るために様々な調査データを用いて日本人の学ばなさ、組織の変わらなさ、その2つの原因を追求するのが次の章です。

第2章 「学ばなさ」の根本を探る──「中動態的」キャリア論
第3章 「変わらなさ」の根本を探る──変化を抑制するメカニズム

まず、日本人が世界で最も学ばないという残念なデータがあります。それはなぜかということを考察しています。

これはいろいろな組み合わせなんですけれど、これまでの雇用慣行とか、企業の研修のしかたとか、労働市場などの仕組みが、個人が学びを通してキャリアアップしていくための足場として弱いつくりになっているということを伝えています。

学ばなくてもそこそこ仕事はできているし、そんなに大きな不満もない、そのような日本人のビジネスパーソンに多くみられるのを「中動態的キャリア」と呼んでいます。

そういう人達に自律性とか自発性を求めても大して効果はないだろうというのがこちらの本のスタンスです。

スキルの発揮がコストになるとみなされている

一方で変わらなさの原因としても悲しい話が展開されます。

そもそもスキルの発揮がコストになるとみなされているんです。

これを変化抑制意識と呼んでいます。

変化抑制意識とは何かというと、業務の変化を起こすことを負荷とか、コストと捉えてしまい、自発的な変化を避けようとする意識が日本のビジネスパーソンに多くみられるという話です。

つまり、学んだことを実践しようとすると、関係メンバーに説明をしたり、反対する人の説得をしたり、言い出しっぺなんだから責任持てと言われたり、業務を調整をしたりとか、実際に行動に起こす前にそういったコストが予期できてしまうわけです。

発言と沈黙の非対称性

これは先日スキルアップラジオでも取り上げた、心理的安全性の文脈で語られる「発言と沈黙の非対称性」とも一致する話だと思います。

何も言わなければ安全で、発言したらリスクだと感じるなら沈黙しておいたほうが良いだろうと人は考えてしまうという話です。

新しく何かを始めること、もしくはそれについて発言すること、これも抑制する意識が働いてしまうということです。

さらに日本人は世界の中でもコミュニケーションにおいて最もハイコンテクストと言われているとおり、はっきり物事を言うよりも察してしまうという傾向にありますので、よりいっそう沈黙していたほうがいいという傾向が強いのかなと思います。

リスキリングを支える学び

それを受けて4章が続きます。

第4章 リスキリングを支える「三つの学び」

第4章では、リスキリングを分解すると、3つの学びの行動が有意に出ているという話です。

その3つの行動は何かというと、今までの行動を棄却していくアンラーニング、組織内外の他者と交流しながら学ぶソーシャル・ラーニング、さらに学んだことをつなげるラーニング・ブリッジング です。

この3つの行動が促進していくような仕組みに組織をしていきましょうということを4章では伝えています。

どのように仕組みを考えられるか

続く5章から7章までは、それを受けて具体的にどのような仕組みを考えられるかということを伝えています。

第5章では「工場」から「創発」へ──日本はリスキリングをどう進めるべきかとして、ここでは、目標管理を中心にその方法を伝えています。

第6章では「学びの共同体」の仕組みとして、企業を「キャリアの学校」にするコーポレート・ユニバーシティについて紹介しています。

第7章では「学ぶ意思の発芽」の仕組みということで、対話型ジョブ・マッチングなどを提案するパートになっています。

そして終章では、これからの企業における「学び」の方向性ということで、本編をおさらいする内容です。

感想: すごく画期的な本

これまでリスキリングといってもかなりふんわりとした議論しかされていなかったものをデータを用いて解像度を高く切り込んでいくとともに、日本人の学ばなさとか変わらなさといった非常に悩ましい問題に立ち向かわないといけないんだよといったメッセージを伝えている点ではすごく画期的な本だと思います。

ビジネスパーソンに期待しなさすぎの印象

感想としては、主に企業の人事・経営者・マネージャー向けにかかれているので、従業員のやる気とか、自律とかに、逃げるなというメッセージだと思うのですが、「個に対する啓発や啓蒙は効果的ではない」と、あまりにもビジネスパーソンに期待しなさすぎの印象を受けました。

僕のスタンスでは、企業は当然、従業員がリスキリングを上手くできるような環境を整えて、それを活かしてほしいなと思うんです。

では、すべての企業の人事担当や経営者がこの書籍を手にとって、自分の会社によい仕組みを整えるかといったら、そう簡単にはいかないと思います。

やはりビジネスパーソン自身で考える必要がある

事実、9割の中小企業の経営者はリスキリングという言葉を説明できないわけです。

では、その企業に勤めているビジネスパーソンはどうするのがよいのかという話になるんですが、やはりそれは自分で考えるしかないということになります。

経営者にとっても、人事担当にとっても、従業員は大事な仲間ではありつつも、他人以外の何者でもないわけなんです。

いずれ定年を迎えたら、会社と従業員の関係は終わります。

つまりどう働くか、その問いに関しては、個々人が最も問うのは当然だと思うし、責任を持つべきものと思います。

なので従業員もやる気はないですが、経営者もやる気がない、こういうスタンスで考えておく必要があるかなと思います。

どちらに対してもできる限り、あの手この手で影響を与えていく必要があると僕は思います。

学びや冒険への欲求は人間の本質

僕は、希望的な部分もあるんですけれど、子どもたちを見ている限り、人間の本質というのは、日本人であろうがなかろうが「自発的に学びたい」とか「冒険したい」という欲求があるものだと思うし、大人になってそれが失われたように見えるとしても、取り戻すことも十分にあると思っています。

なので仕組みを変えるというのは同意だけど、その仕組みを変えることを通して、それぞれが自律的に学ぶようになると期待しておけばよいのではないかと僕は思っています。

非常に深いところでリスキリングに関して学びが得られる良書だなと思いますので皆さん手に取っていただければと思います。

まとめ

ということで、今日はVoicy「スキルアップラジオ」の放送から「書評『リスキリングは経営課題?日本企業の「学びとキャリア」考』」をお届けしました。

僕が執筆して7月に発売される「デジタルリスキリング入門」と比べると、同じリスキリングをテーマにした書籍ながらもアプローチが全く違うというのがすごく面白いなと思うんですね。

そもそもスタート地点が企業視点なのか個人視点なのかということがあるんですけれど、ただ、面白い共通点としては、学びに心理的側面とか社会関係性とかにフォーカスを当てているというところがあります。

ぜひ皆さんもくらべっこしながら読んでいただければ面白いと思います。

タカハシのVoicyの放送はこちらからお聴きいただけます。

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では、また。

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