「少ない人数で濃くしゃべる」読書会から始まったオンラインコミュニティのこだわり

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「読書」と「対話」をテーマにしたオンラインコミュニティ「おとのわダイアローグ」を主宰している栗原和音(わおん)さん。「少ない人数で濃くしゃべる」スタンスで、参加者と対話を広げています。わおんさんがおとのわダイアローグでやりたいこと、そして「音読する」「結論を出さない」といった独自のこだわりについて、タカハシノリアキが伺いました。
※本記事は、2024年8月24日、Voicyチャンネル「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」で行われた生放送の内容から制作しています。

音読を通して、耳と目からリッチな情報が入ってくる

タカハシ わおんさんが主宰しているオンラインコミュニティ「おとのわダイアローグ〜今日を生きる人たちの対話の場〜」(以下、おとのわダイアローグ)は、読書会を軸に活動されています。ひとことで「読書会」と言っても、おすすめの本を紹介しあうスタイルもあれば、みんなで1冊を読んで感想をシェアする会もありますよね。おとのわダイアローグではどんなやり方をとっているんですか?

わおん おとのわダイアローグは、「本を事前に読んでこなくてOK」というスタンスです。私が読む本を1冊決め、さらに読む箇所を2〜3箇所選んで、参加者の皆さんにお知らせします。当日集まったメンバーは、だいたい1時間半くらいかけてみんなで読むというかたちです。

冒頭では自己紹介もせず、いきなりチェックインとして「今この瞬間の感情と、体の状態」をみなさんに聞きます。例えば部屋のエアコンがうるさくて気になるとか、眠たいとか。大事なのは、自分が今何を感じているか。今感じていることや、気がかりなことを一旦その場に出すことで、その後の本題に集中しやすい状態をつくっています。

そしていちばん大事にしているのは、音読しながら一緒に読んでいく、輪読形式であること。その後、本の中で響いた言葉や心にひっかかった箇所、連想したことなどをシェアします。

わおん(栗原和音)さん
プロコーチとしてコーチング活動やイベントのファシリテーターとして活躍。好きなことは話すこと、得意なことは聴くこと。福岡県糸島市在住。元高校教師。

タカハシ 大人になると、音読する機会ってあまりないんですよね。複数人で音読するって、小学校の国語の授業に少し似ていますね。

わおん まさに、懐かしいとおっしゃる方が多いです。不思議なもので、学校で音読させられるのは嫌だったけど、大人になってやると楽しいという感想が多いですね。少人数でやっているから、安心して読めるのかもしれません。

音読というスタイルを選んだのは、言葉が染みる感じがあって好きだからです。他の人に文章を声に出して読んでもらうと、自分一人で目で追うよりもゆっくり読むことになるので、目と耳の両方から言葉が染み込んでいく感じがします。私は聴覚優位というか、人の声が好きなのかもしれません。

タカハシ 誰かが音読していると、自然とその箇所に集中が集まりますよね。音読すると、視覚優位の人も聴覚優位の人も得意なやり方で読める。一人で読むよりもリッチな状態で、本の内容が頭に入ってくるのかもしれませんね。それをベースにしてみんなで対話をするという流れ、いいですね。

タカハシノリアキ
一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事。コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰。福岡県糸島市在住。Voicy「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」パーソナリティ。ブログ「いつも隣にITのお仕事」著者。東京工芸大学大学院非常勤講師。著書に「デジタルリスキリング入門」「ChatGPTで身につけるExcel VBA」など。

わおん 音読のメリットとして、全員が同じ箇所に意識を集中するので、時差がない状態で進められるということがあります。参加者全員で、ちゃんとその本の内容を共有できている感じというか。逆に参加者が事前に課題図書を読んでくるスタイルだと、1冊読み切れていない焦りを感じてしまう方がいたり、読んだタイミングに時差があって対話がうまく進まないケースがあると思います。

音読だからこそ、参加者の負担にならず、かつ誰も置いていかれずに対話できるのがポイントです。読めていないとか覚えていないとか、そういう焦りはできるだけ減らして読書会をやりたいんです。

読書会を通して、1冊の本を立体的に楽しめる

タカハシ 僕が主宰している「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)でも、読書部のメンバーを中心によく読書会をやっています。ノンプロ研はメンバーが180人ほどいるので、読書会のパターンも複数ありますが、いちばんメジャーなのは「ビブリオバトル」複数人が自分の選んだ本をプレゼンして、参加者投票でその回の1位を決めるというものです。僕はまだ一度も、1位を取ったことがありません(笑)。

ビジネスやITの本が多いと思われがちですが、実はそうでもなくて。小説や哲学書、料理本など幅広い本がプレゼンされています。僕はどうしても仕事に関連する本ばかり選びがちなので、まったく違うタイプの本を知れるのがすごく面白いです。ほかにも、1冊の本をみんなで分担して、2〜3ヶ月かけて読んでいく「輪読会」もよく開催されています。

わおん 読書といっても、ビジネス書から小説、エッセイ、学術書などいろんなジャンルがあるので、ほかの方とシェアすると必ず新しい出会いがありますよね。おとのわダイアローグ外の活動ですが、2024年5〜6月には、友達が紹介してくれた『手の倫理』(伊藤亜紗著、講談社選書メチエ)という本で全4回の読書会をしました。

私からすると、まず自分では選ばない本です。「倫理」って難しそうだし、「手」も私の中で気になる言葉ではなくて。でも実際に読んでみると、触覚にまつわるすごく面白い内容でした。触覚について、日常会話で取り上げることってほぼないですよね。

そういうテーマに上がらないことをじっくり話せる機会になったり、この人こんなこと考えてたんだと知る機会になったり。読書会は、1つのテーマがありながらもいろんな観点で話せて、立体的な楽しみ方ができます。

『手の倫理』の読書会。福岡県糸島市「atelier MOMENT TEXTILE」の店主・指方千奈夢さんと一緒に開催しました。

タカハシ 読む本も読み方も人それぞれで、面白いですよね。僕は自分の著書については出版社に事前に許可を取って、「まえがき」と「あとがき」はブログにアップしています。今年8月に発売した著書の「はじめに」は、Voicyで配信しました。

わおん 「まえがき」と「あとがき」だけでも語れることいろいろありますよね。あとがきに詰まっているというか。著者の音読を聴けるなんて、ぜいたくですね!

「結論を出さない」対話という特別な体験

わおん 本をきっかけに、1つのテーマについてみんなで意見交換することもあります。私は、ほかの人に自分のことを話すのは楽しいし価値あることだと思いますが、そういう体験って意外とないんですよね。「この話をしたら、変な人と思われそうだから言えない」とか「とんちんかんなアドバイスがきそうだから、話さないでおこう」と思った経験がある人は多いと思います。

公開コーチングの時間をもったとき「5分間ひたすら自分の話をする時間って新鮮でした」といわれて。たった5分なのに! 自分のことを喋って楽しかったとか、話を聞いてもらえて心地いいとか、そういう体験って実はかなり少ないんじゃないかな。とくに、コーチングしているときによく言われますが、家族でも職場の同僚でもない人に自分の話をする機会って全然ないんですよね。

タカハシ ノンプロ研でも、部活動としてオープンダイアローグ(対話)の時間を持つ活動があります。話し手には「こんなに自分の話をしていい場所があるなんて!」と驚かれますね。

オンラインでオープンダイアローグをすると面白くて、Zoomの画面オン・オフ機能がかなり効くんです。まずは話し手が話して、聞き手が相槌を打ちながら聞き、オブザーバーはみんな画面オフでそれを聞きます。話が終わったらリフレクティングタイムとして、聞き手とオブザーバーが意見交換するんです。

その間、話し手は画面をオフにして、みんなが自分の話をしているのを聞きます。話し手からすると、みんなと一定の距離がある状態で「まるで死後の世界みたいだった」という感想がありました。顔が消えるとちょうどよく存在感がなくなるんですよね。リアル開催だと、その場にいながら背中を向けることになりますが、ちょっと強めに存在を感じてしまいそうです。

わおん それは日常でも仕事でもない、結構特殊な状況ですね。私がオープンダイアローグで好きなのが、「結論を出さない」という発想です。仕事ならスピーディーに結論を出すのがよしとされますが、ここでは「今は結論を出さず、ただその場に話題を出す」というのが許されていて、癒されるし特別な体験だなと感じるんです。

タカハシ 人間も社会も複雑だから、すぐには答えが出ないことも多いのに、ビジネスの現場ではそれを認めてもらえない。「とりあえず出し合って共有するだけでOK」というスタンスのコミュニケーションをすると、いいガス抜きになると思います。

気持ちを外に出すことで、できごとに対する見え方が変わる

わおん 人と話すことで、自分が抱えていたモヤモヤや不安、心配ごとが小さくなるのもメリットです。いったん外に出せば「私、なんでこんなことを気にしていたんだろう?」とか「こう思ってるのって私だけじゃなかったんだ」とか気づけるんですよね。状況は変わらなくても、見え方が変われば問題が問題じゃなくなります。

たとえば同僚の悪口を言っちゃって罪悪感を持っているとしたら、「悪口は言っちゃダメ、相手のいい部分にだけ目を向けよう」と考えると解決するのが難しくなります。人間関係は必ずどこかで摩擦が起こるものだから、相手を好きになれないのも仕方ない。むしろ、仲間の悪いところといいところが両方見えるのは、それだけ相手をよく観察しているということです。

タカハシ 問題をなくそうとせず、そのまま抱えておいていいという「ネガティブケイパビリティ」を味わえますね。僕は、コミュニティ自体にそういう機能があると思っていて。狭い世界の中で特定の目標を追いかけていると心にタガが生まれちゃうけど、コミュニティにはいろんな人がいるから、自分が持っていない価値観にも触れられて、タガに縛られずに済むなと。

例えば家族や会社では、「母」や「課長」といった役割が与えられて、その役割に沿ってふるまうことが多いと思います。でもコミュニティでは基本的に果たすべき役割が決まっていない。だからこそ、なんでも話せるんじゃないかなと思うんです。

わおん そうですね。おとのわダイアローグは今20人くらいメンバーがいますが、その20人にはこれといって共通点がありません。福岡在住とか家庭があるとかIT企業勤めとか、そういったジャンルの区切りがないのが面白いところ。未だに相手がどんな仕事をしているのか知らないまま喋っていることが多いですね。

他の人と交流し、自分にない価値観を知るのは、少し海外旅行と似ていますね。この「越境」こそ、コミュニティに入る意義の1つだと思います。ここまでオンラインで活動してきたおとのわダイアローグですが、2024年11月には、東京・飯田橋でイベント「学習コミュニティフォーラム」に参加します。ほかのコミュニティの方々と意見交換して、私たちにはない視点や考え方をたくさん知りたいです!

>【2024年11月16日(土)】学習コミュティ同士がつながり、学び合い、共創するイベント「学習コミュニティフォーラム2024」の詳細はこちら。リモート参加もあり、現在ご参加受付中です!

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。