元SEが始めた「社内勉強会」が、人気を博してコミュニティに!主宰者・福島亜秋美さんの挑戦

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一般企業のバックオフィス部門で働いている福島亜秋美(あずみん)さん。社内で、DX活用による業務改善方法を模索する勉強会を主催し、コミュニティとして2年以上継続しています。周りの理解や協力を得にくいイメージのある社内勉強会を、どうやって成功させたのでしょうか。
※本記事は、2024年9月14日、Voicyチャンネル「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」で行われた生放送の内容から制作しています。

勉強会を始めた当時には想像もしていなかった未来が、今始まっている

タカハシ あずみんは、IT活用について学び合う社内コミュニティを運営していると伺いました。どんなコミュニティなんでしょうか?

あずみん 全社の5部門10チームから20人ほど集まって、業務後に会議室でMicrosoft Power Automate(単純業務やワークフローを自動化するMicrosoft 社のSaaSツール。以下、Power Automate)の使い方や業務改善についてワイワイ議論しています。みんなで考えた課題をベースに、おにぎりを食べながら話すというカジュアルな雰囲気です(笑)。最初は「勉強会」という名前でしたが、先日、会社にオフィシャルな部活として認めてもらいました。

福島亜秋美(あずみん)さん
福島 亜秋美(あずみん)さん
(株)早稲田大学アカデミックソリューション 大学業務支援部 人事支援チーム所属
2014年にキャリア入社。前職のSEとしての勤務経験からシステム関連部門に従事後、2022年に現在の所属へ異動。異動を契機に、担当する業務の傍らで社員同士で学び合うことを目的とした学習コミュニティ「DX活用による業務改善方法を模索する勉強会」を立ち上げる。現在は社内にて公式の部活動として認められ、部門横断的な活動を展開中。

タカハシ Power Automateの使い方がメインなんですね。具体的にはどんなことを議論しているんですか?

あずみん 例えば週1でオンラインの定例会議があり、参加者が輪番で「書記当番」を担当しているとします。通常なら、会議のURLや書記当番などの情報をExcelなどにまとめて、会議前に各自がExcelをチェックします。それを自動化すれば、会議開始15分前にチャットで「今日は定例会議です。書記当番は○○さんです。ZoomのURLリンクはこれです」と自動通知させることができます。書記当番を確認する手間も、ZoomのURLを探す手間も省けます。1人当たり1分程度でも、人数分の時間が毎週浮くので、いい効率化になります。

もっと複雑な例でいえば、書類管理において人間の手で行う作業が減ります。例えば取引先から請求書や領収書を受け取ったとき、担当者は書類に受付番号を押してPDF化し、フォルダへ格納すれば作業完了。その後はPower Automateが受付番号を読み取ってExcelへ転記し、ファイルをルールに沿ってリネームし、さらに必須項目をチェックしてくれるようになります。

タカハシ すごく実践的な内容ですね! 開催するときの進め方は、どんなふうにしているんですか?

タカハシノリアキ
一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事
タカハシノリアキ
一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事。コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰。福岡県糸島市在住。Voicy「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」パーソナリティ。ブログ「いつも隣にITのお仕事」著者。東京工芸大学大学院非常勤講師。著書に「デジタルリスキリング入門」「ChatGPTで身につけるExcel VBA」など。

あずみん 参加するメンバーが、自主的に勉強会を企画・主催しています。誰かが事前に企画して「○月○日にこれをやります!」とアナウンスすることもあれば、「あれをやってみたいね、今日どう?」とチャットに入れて、興味を持ったメンバーが集まることもあります。みんなにこんなに積極的に参加してもらえるなんて、勉強会を始めた当時には全然想像していませんでした。新しい未来が始まっているなという手応えがありますね。

非エンジニアは「DXしたい、でもわからないことだらけ」

タカハシ 業務改善は今、どの業界でも注目されているテーマですよね。社内では、非エンジニアの方に「ITを学びたい」というニーズがあったのでしょうか。

あずみん どちらかというと「DXしないといけないのはわかってるけど、誰に聞いたらわかるのかもわからないし、日常業務で忙しいのにただでさえ苦手なITを勉強するのはハードルが高い」という感じだと思います。まず、非エンジニアには、DXをした結果何が実現できるのか具体的にイメージできないという壁があります。

自動化やツール活用をしたいけど、やり方も、わからないことを聞ける相手もわからない。時間をかけて勉強しても成功する保証はない……そんな困りごとがあるんじゃないかなと思いました。私の経験を生かして役に立てたらと思って、「私、元SEなのでこういうことができます、よかったらやり方を教えます!」と社内で触れ回っていたんです。

私は今人事部関連の委託業務を担当していて、本来の担当業務はERPパッケージの運用・保守です。もともとSEとして働いていたのでプログラミングの経験があり、この仕事にアサインしてもらいました。私以外のメンバーはみんな非エンジニア。Power Automateを自由に使える環境が整ってきましたが、実際に使ってもらえるようにするにはまだ壁がありました。

現場のみなさんに伴走して具体的な悩みを解決したいと思って、2022年8月からPower Automateの勉強会を始めたのがすべての始まりでした。最初は、ランチタイムの最後10分間に何人かを集めて、オンラインMTGでPower Automateをレクチャーする会を始めました。続けているうちにだんだん、業務改善や作業自動化は非エンジニアでもできるんだと、みんなの間で広まっていったように思います。

タカハシ そこから2年かけて、メンバーが自主的に企画・運営する状態にまで育ったんですね。自走するコミュニティ、本当にすばらしいと思います。

みんなで一緒に学ぶと楽しいし、得られる成果も大きくなる

タカハシ 勉強会をする中で、あずみんが大事にしていたポイントなどはありますか?

あずみん 最初は、私がPower Automateを解説する研修用の動画コンテンツをつくって、それを見ながら説明する形をとっていました。でも、私のやり方を見せるだけじゃなくて「楽しいからやってみて」と背中を押して、みんなにも一緒に手を動かしてもらうことを大事にしていました。

そのうちに、みんながスムーズにPower Automateを使えるようになったり、「もしかしてあの作業にも使えるかも」とひらめいた瞬間表情が明るくなったり、そういう変化に感動しました。勉強会を始めてから2年と少し経ち、ここまでちゃんと活動できるようになったのが感慨深いし、主宰者としてみんなに育ててもらったなあと感じます。

タカハシ DXに課題感があっても、普通は本や動画のおすすめ情報を交換しあう程度で終わることが多いです。そんな中、あずみんは社内で勉強会を立ち上げ、コミュニティとして成功させています。やり遂げようと思った理由は何でしょうか。

あずみん 私がみんなに一方通行で教えるんじゃなくて、仲間が集まっていろいろ話しながら学んだほうが楽しそうだし、結果的に得るものも多くなると思ったからです。講義を聞くだけでは、やっぱりものごとの本質は伝わりにくくて。それなら、同僚や立場の近い人たちとコミュニティ的にPower Automateを学び合い、教え合ったほうがいいのではないかと思いました。

部署異動を経て、非エンジニアのリアルがわかるようになった

Voicy対談時の2ショット
Voicy対談時の2ショット。生配信で盛り上がりました!

タカハシ 一方通行よりも双方向の学びのほうが成果が出やすいですよね。ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会(ノンプロ研)でもよくその話が出ます。エンジニアの経験があるあずみんが、非エンジニアの困りごとをそれだけリアルに感じ取れたのはなぜですか?

あずみん 1つは、部署を異動したことです。2022年4月に、サービスを社内に提供するシステム企画部から、ERPパッケージの保守をする現場に異動しました。異動したことで視野が変わり、非エンジニアのみんなが具体的にどんなことに困っているのか、少しずつわかるようになりました。

例えば当社では事務手続きに関するお知らせメールを毎日何通も配信していますが、その意味や重要性を、異動前の私はあまり理解できていませんでした。前の部署ではいわゆる事務仕事がまったくなくて、大量のメールを送ることも、紙で契約書や領収書を管理することもなかったんです。だからPower Automateで簡単にプログラミングできると知っても、自分自身の業務と全然マッチングしなくて。「こんなの誰か喜ぶんだろう?」と思っていたくらいです(笑)。

異動してからは、事務仕事が「同僚が目の前でやっている仕事」になってリアリティが生まれて、その重要性や大変さ、どれだけ神経をすり減らすものかわかるようになりました。みんな、仕事をいい方向に変えたいという気持ちは強く持っていて、でもどうしたらいいかわからない。そういう辛さを目の当たりにしました。私が実行環境を整えてきたPower Automateが、日常業務に役立つツールだとわかったのもうれしかったです。

コミュニティを通して、改めて自分の興味の矛先がわかった

タカハシ 自動化や効率化で業務のやり方が変わることに、抵抗感のある人も多いと思います。あずみんは、社内から抵抗を受けることはありませんでしたか?

あずみん まさにその心配はありました。「ITの人」って嫌われたり疎まれたりしがちですよね(笑)。正直、かなりの抵抗を受ける覚悟で始めました。でも実際に呼びかけてみると全然抵抗はなく、みんな前向きに興味を持ってくれたので、意外だったしうれしかったです。

私はSEのころからずっとシステム関連の仕事をしてきましたが、システムをつくるよりも使う方に興味を持っているんだな、と気づきました。現場で並走できる感覚はすごく楽しいんです。異動してから、自分の当たり前が他人の当たり前じゃないということにも気づけたし、自分自身の興味の矛先も改めて認識できました。

タカハシ あずみんの活動は、「システムの仕事が好き」という気持ちが起点になっているんですね。その気持ちをみんなにも味わってほしいというのが、モチベーションになっているんですね?

あずみん そうですね! 私自身、SEとしてシステム開発をやってきて、その仕事がすごく楽しかったんです。プログラムをつくって、自分が想定した通りに動いたときはすごく達成感があるんですよね。だから「楽しいよ」とみんなに発信したかったんだと思います。勉強会そしてコミュニティのおかげで、新しい経験も発見もたくさんできました。

今度、2024年11月16日(土)に行われるイベント「学習コミュニティフォーラム」に参加することにしました。ほかのコミュニティに参加している方々とつながって、いろいろなお話をシェアするのが楽しみです!

>【2024年11月16日(土)】学習コミュティ同士がつながり、学び合い、共創するイベント「学習コミュニティフォーラム2024」の詳細はこちら。リモート参加もあり、現在ご参加受付中です!

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。