「自己理解は失敗体験から深まる」。『ライフピボット』著者・黒田悠介さんに聞くキャリア論

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『ライフピボット』著者であり、さまざまな媒体でキャリア論を発信し続けている黒田悠介さん。黒田さん自身のキャリアを振り返ると「失敗体験を経て、自己理解が深まった」といいます。今回は黒田さんに、自己理解を深めるための方法論から会社員にオススメしたい副業の始め方まで、たっぷりとお話を伺いました。
※この記事は、2024年1月24日(水)に「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)内で実施されたイベントの内容をもとに執筆しました。

スキルの棚卸には「職務経歴書」が意外と使える!

ーー自分のキャリアを考えるに当たり、まずはスキルの棚卸をしたいと思います。オススメの方法はありますか?

僕は月に1度、職務経歴書を更新しています。自分が達成したこと、実績として積み重ねた仕事を文字にして書くんです。例えばプロジェクトが成功したら、「そこに自分はこう関わった、この部分を工夫して、こう変えたら、こんな成果が出た」というように。小さな実績は毎日生まれていますから、意外と毎月新しいことを書き加えていけます。

これを続けていると、自分の得意なことや、知らず知らずのうちに磨かれてきたスキルセットに気づけます。「意識していなかったけど、実は業務改善が得意かも」「意外と交渉ごとが向いているな」と、自分の強みに目が向くようになるのはとても大きいメリットです。私は8年間フリーランスとして働く中で、月報代わりに毎月更新し続けてきました。

大事なのは、こまめに、かつ定期的に更新し続けることです。5年前にやった細かい仕事って、もうほとんど覚えていないでしょう。だから忘れないうちに書いておくのが大事。転職活動を始めるとき、そのまま流用できるので便利です(笑)。

『ライフピボット』著者の黒田悠介さん
黒田 悠介さん
2008年東京大学文学部卒業。2社のベンチャー企業を経て11年に起業、12年にスローガン株式会社にジョイン。15年に独立し、フリーランスのディスカッションパートナーに。支援した企業は約100社。17年にフリーランスコミュニティ「FreelanceNow」と、問いでつながるコミュニティ「議論メシ」を立ち上げる。議論メシは300人のメンバーを擁し、月10~20回の議論イベントを開催している。『ライフピボット』(2021年、インプレス)著者。

ーー職務経歴書とは意外なツールでした。キャリアの棚卸をすることで、自己理解が進むということですね。

自己理解については、まさに『ライフピボット』の発売から3年以上経ってアップデートされつつある部分です。「can(できること)」や「need(他者から求められていること)」の要素が強くあっても、「will(やりたいこと)」の要素が薄ければあまり長続きしないし、そもそもモチベーションがわきにくいんですよね。だから、まずは自己理解をどこまで深められるかが大事です。

自己理解をするときのコツは、「自分が実際にやったこと、行動ベースで振り返る」ことです。記憶だけに頼るとどうしても美化されてしまうので、できるだけフレッシュなうちに振り返りをするのがいいと思います。振り返りを習慣化すると、リズムがついてくるのでストレスも少なくなりますよ。

また、上司との振り返りの場ではつい綺麗に答えてしまったり、自己流の性格診断では空想が混じってしまったりします。それよりも、事実ベースで振り返りをしましょう。

ーー気づきの中にはネガティブなものもあって、頭の中で整理するのは難しそうです。

ぜひ、文章にして書いておける環境をつくりましょう。できれば、人目にさらさない媒体だといいですね。noteや公開状態のSNSに書くと、どうしても他人に見せることを前提とした書き方になるので、内容がズレてしまったり本音が書けなかったりします。自分の中に大事な気づきを得たのに、それを抹消してしまったら非常にもったいない。例えば非公開のnoteや非公開のSNS、紙媒体などを活用するといいと思います。

自己理解は、失敗経験から深まっていく

ーーご自身のキャリアを振り返って、「これは失敗したなあ」というものはありますか?

会社を経営したことです。僕は26歳のときに起業したんですが、経営している間ずっと、本当に苦しくて。面白いことをやりたいと思って起業したのに、いざ「面白そうな選択肢」と「儲かりそうな選択肢」を前にしたら、儲かりそうな方を選んでしまう僕がいたんです。社員を食わせていかねばという変な責任感で、思い切った選択をできなくなりその板挟みで苦しんでいました。

その後独立してフリーランスになったのは、背負っていたものを降ろして、自分の好奇心が赴くままに、ワクワクするほうに進みたいと思ったからです。社員を雇うのは、僕には向いていないという気付きがありました。

もっと小さいことでいえば、一人語りのポッドキャストを始めたのですが全然続かず、僕は一人でしゃべるのが苦手なんだなと気づきました。パーソナリティが2人いる対話型ならまったく苦にならないので、この形式が向いているなと。大きい失敗から小さい失敗までありましたが、どちらからも自己理解が深まったし、自分の思考回路がクリアになったのでいい経験だったと思います。

ーーネガティブなことをベースに、キャリアを転換するというのは新鮮ですね。

むしろ、ネガティブな振り返りから苦手なことややりたくないことを見つけ、消去法でキャリアを選択していくほうが、自分の強みを見つけるよりもずっとハードルが低い。これは、僕がこれまでの経験から見つけた1つの答えです。

上手くいかなかった仕事や自分には向いていない分野が、1つは思いつくはず。それを見定めて、上手に自分を見限っていきましょう。例えば「通勤電車には耐えられないからフルリモートの職場を選ぼう」「数字を背負って働くのが苦手だから、数字の目標が厳しくない職種にしよう」といったように。そうすると、最終的に自分が納得できるものだけが残ります

僕自身、「経営者には向いていない」と気づいた苦い体験が強烈に残っているので、起業する選択肢はもう絶対に取りません(笑)。誰でも、得意なことよりも苦手なことのほうがはっきり自覚できるし、自分の中に長く残りますよね。ネガティブな出来事をコレクションしていくと、だんだん消去法で選択肢が狭まって、自分にとってストレスないものを選びやすくなります。

副業を始めるなら「お金にならなくてもやりたいこと」がベスト

ーーキャリアを考えた結果、副業をしてみたい。でも何から始めればいいのかわからないという人が多いようです。

お金にならなくてもいいから一度やってみたいこと、人から言われなくてもやりたいことから始めるのがベストです。できれば、興味があるけど本業にするほどのスキルがないことや、それほど多くの時間を割けないことに挑戦するといいと思います。お金になるかどうかはさておき、誰かに弟子入りするくらいの気持ちで始めてみたらいいのでは。

モチベーション維持のためにも「will」の要素は欠かせないので、自分がいちばん楽しくやれることからスタートして、周りとの関わり合いの中でだんだん広げていきましょう。そのうちにいろんなことができるようになり、またそれに合わせてネガティブな気づきも生まれるはずです。それをもとに選択肢を絞っていくと、自分なりの道筋が見えるのではないでしょうか。

ーー副業する内容を考えるときのポイントはありますか?

会社でやっている業務とは、全然違う仕事に挑戦するのがいいと思います。本業と似た仕事だと、あまり変わり映えがなくてリフレッシュにならないし、スキルの幅も広がりません。そうなると結局、お小遣い稼ぎが目的になってしまう。「will」を存分に生かせる仕事がいいのではないでしょうか。

また、定期的にスキルを棚卸することで、自分の可能性を具体的に認識できます。そして、いざ人との出会いや新しい経験をしたときに、「この経験はあの仕事に生かせるな」とアイデアが生まれるようになるんです。いわば、受け皿が広がる状態。大きい器を持っていろんなことを経験すると、キャリアの規模がぐんぐん広がっていくと思います。

ーー社外にネットワークをつくりたいと思ったら、何をするのがいいでしょうか。

興味関心のあるテーマや趣味を元に、何かしらのコミュニティに入るのがオススメです。上下関係や利害関係のない居場所を持つのは、人生を豊かにする観点からも大事。そこで出会った仲間と信頼関係を築ければベストです。

また、たまたま出向いたイベントで人とのつながりが生まれることもあります。できるだけフットワークを軽くして、偶然性を大事にするといいですね。ライフイベントによってあまり身動きを取れない時期もありますから、動けるときは動いて、社会関係資本を貯めておきましょう。

僕は大規模なイベントに行くときは、会いたい人や話を聞きたい人を決めて、その方をピンポイントで決めておきます。逆に少人数の時は、友達づたいで面白そうなところに出かけます。でもやっぱりいちばんいいのは、登壇者として呼ばれることですね(笑)。こうして外にベクトルを持ち続ければ、自然に自分の世界を広げていけると思います。

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。