「心から楽しめることは、長く続く」。貿易商社の経営・辻健蔵さんに聞く、”挑戦し続ける極意”

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株式会社TG GLOBALを経営している辻健蔵さん

「北海道から世界の食卓へ」を合言葉に、北海道産の食材を扱う商社・株式会社TG GLOBAL(ティージーグローバル)を経営している辻健蔵(つじけんぞう)さん。辻さんは、プログラミング初心者だった2018年に「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(通称、ノンプロ研)に入会。最近は、Podcastの音声配信を毎日(!)配信するなど活動の幅を広げています。4年間でプログラミングのスキルを身に付けた辻さんが、それでもなおノンプロ研に所属し続ける理由とは。

起業後、雑務に追われてプログラミングの必要性を感じた

ーー辻さんが、北海道産の食材を扱うビジネスを始めたのはなぜですか?

地元は長崎県。実家は米屋・酒屋を営んでいましたので、幼心に「僕もいつかは商売をして生きていくんだろうな」と思っていました。大学卒業後は1年ほど、個人事業主として北海道のカニを香港や台湾に輸出する事業を経験。そこで北海道の食材の豊かさとおいしさ、そして人のよさに魅せられて札幌に移り住みました。北海道のポテンシャルの高さに賭けてみようと思い、2012年2月に株式会社TG GLOBALを起業しました。

北海道産の食材、例えば海産物や日本酒、フルーツなどを主にアジアとオーストラリアに輸出する事業をしています。1人で起業した会社ですが、現在は5人の従業員と共に働いています。

ーーその中で、プログラミングをしようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか。

起業当初は、私1人で請求書をつくったり在庫管理をしたりと、雑務をこなしていました。ある頃から、Excelのマクロ機能(VBA)を使って簡単なソースコードを組み、作業を自動化するように。それまで5分かかっていた作業が1クリックで終わったときは衝撃的でしたね。私をコピーしたロボットが生まれて、単純作業をやってくれているのかと錯覚するくらいでした(笑)。

起業して3〜4年経つと従業員が増え、事務作業も増加。マクロ機能だけで乗り切るのは厳しくなり、プログラミングを1から学びたいと思うようになりました。業務をプログラミングで自動化するためには、自分の業務をすべて棚卸しする必要があります。そこで無駄な仕事を省ければ、空いた時間を誰かに会ったり、新規事業への挑戦に充てることができて一石二鳥だと考えました。

ITリテラシーの高い知り合いから紹介されたのが、ノンプロ研だった

株式会社TG GLOBALを経営している辻健蔵さん
品質第一。仕入れからお届けまで、弊社でハンドリングします。

ーーでも、ほぼ知識がない状態で勉強を始めるのはハードルが高いのでは。

そうなんです。プログラミングが義務教育の必修科目になると聞き、私もITスキルを身に付けたいなと思っていました。でもどうやって勉強すればいいかわからないし、時間もないし、やたらと深い専門知識を得ても仕方ないし……とモヤモヤしていたんです。そこで、当時の私が知る中でいちばん詳しそうな、株式会社フロント・ワークスの江藤大さんに相談してみたんです。

江藤さんはノンプロ研の古参メンバーで、GAS(Google Apps Script)はもちろん、情シスとしていろいろな挑戦をしている人。「ノンプロ研という面白いコミュニティがあるから、一度来てみなよ!」と誘ってもらったんです。2018年当時、ノンプロ研が立ち上がって間もないころでした。まあ、わからないことは、いざとなれば江藤さんに聞けばいいと思っていたので、勉強のハードルはそんなに高くなかったです(コミュニティ参加は死ぬほど緊張しましたが。笑)。

ーーノンプロ研に参加してみて、どうでしたか?

まずはGAS講座の初級に参加。当時は講座も懇親会もすべてオフラインで行われていたので、私は会場に動画配信のカメラを入れてもらい、札幌から視聴する形で参加しました。ほかにも何名か、オンラインで参加している人がいましたね。

初心者ばかりと聞いていたのに、みなさんのレベルが高くてびっくりしました(笑)。でも、分からないことは何でも聞ける環境があるし、何かアウトプットすれば必ず誰かに「いいね!」と言ってもらえるので心理的安全性が高い。居心地がよくて、すぐにプログラミングにハマりました。あの頃は毎日朝から晩まで、GASばかりやっていましたね(笑)。

まずは講座についていけるように頑張ろうと思いましたし、少しでも勉強の成果が得られたらそれを周りにシェアすることでみんなの役に立ちたいと思いました。とにかく、新しい知識を得るのが楽しくてしょうがなかったです。

ーープログラミングは、辻さんの業務にどう活用できましたか?

例えば、仕入れた農産物の品名と数量がメールで届くと、その件名や内容、金額を抜き取って、Google スプレッドシートに整理してくれるツールを作りました。月末にはPDFに自動出力してくれるので、経理上の処理もとても楽。高度な顧客情報を扱う業務などはあえて自動化せず、一部を手作業のまま残しています。

ーープログラミング初心者が、スキルを身につけるときのコツはありますか?

最初から大きな物を作ろうとしないこと、あまり深く悩まずに手を動かすことがコツです。どんなに小さくてもいいので、自分の業務の中で自動化できる部分を探して進めていきましょう。例えば5分かかっていた仕事が30秒でできるようになれば、空いた時間で新しいことを勉強できる。その繰り返しで、どんどん新しい知識が身につき、スキルも上達していきます。そもそもどこを自動化できるのか、初心者には見極めが難しいかもしれません。自分で見当をつけられるようになるまで、私は3カ月くらいかかりました。

「スーパードライな人」高橋さんの理念に共鳴

生きたままのカニやホタテを輸出することも。鮮度バツグンです。

ーー辻さんが思う、ノンプロ研のいいところを教えてください。

まずは、学ぶ意欲のある人たちが集まっている点。勉強する楽しさを分かり合えるのはもちろん、仲間に背中を押してもらったり、お尻を叩いてもらえたりするからこそ、長く続けられると感じます。とくに最近はメンバーの層が厚くなってきて、イベントを1つやるにも自走できるコミュニティになりました。

それから、ノンプロ研主宰・高橋宣成さんの考え方がとても魅力的です。高橋さんは、いい意味で「スーパードライな人」。その時々でやっていることに固執せず、いつも未来を見ている姿勢がすごいと思います。例えば1つ学習のテーマを決めたとしたら、その分野のスペシャリストになるまで猪突猛進してしまいそうなところ、高橋さんもっと先の展開を考えている。その理念に、私は共鳴しました。

ーー最近は、どんなことに興味をお持ちですか?

最近は、後進を育てることや、仲間を増やすことに興味があります。プログラミングにせよ何にせよ、自分のスキルを一通り伸ばし、次は何をしようかと考えたときに「組織を成長させたい、人を育てたい」という結論に行き着くのは自然な流れですよね。

私はプロのプログラマーではないので、もっと専門知識がある人は世の中にごまんといます。だけど、「得た知識を業務に使う」とか、「無駄な遠回りをしない」といったスキルについては、私にしか伝えられないこともあるかなと。

プログラミングに限りませんが、本質的に理解できていれば、それをほかの人に教えたり伝えたりできます。さらに、自分の中でも知識の汎用性が高くなり、アレンジしやすくなる。高橋さんが言う「うわべではなくて本質をとらえる」とはまさにこのことだと解釈しています。

ひょんなことからコーチングを体験、今ではプロコーチに!

ーーノンプロ研の中で、コーチングにも挑戦されているとか。そのきっかけは何だったのでしょうか。

コーチングは数年前から、すごく注目されていますよね。私は最初、「カウンセリングと何が違う?」「ちょっと怪しい自己啓発?」と思っていました(笑)。一方で社内では、チームでプログラミングをすることにチャレンジしていました。メンバーは4~5名ですが、組織マネジメントやコミュニケーションに課題を感じ、いい手法を探っていたんですよ。

ノンプロ研のライティング講座を受講した結果、「思いを伝えられないのは、自分が相手の話を聞けていないからだ」という発見がありました。その後、ノンプロ研コーチング部のメンバーに声をかけてもらい、30分の無料体験を受けてみることに。

今抱えている悩みの解決からサポートしてほしいと伝えたところ、想像以上に頭が整理され、すっきりする感覚がありました。同時に、私もコーチするスキルがほしいと思い、プロコーチになるべく勉強を始めたのが2021年秋のことでした。つい先日、プロコーチの資格を取得しました!

株式会社TG GLOBALを経営している辻健蔵さん
世界的な運賃高騰やフライト減便のなか、関係者と協力しあう体制を作っています。

ーーノンプロ研には、コーチング部があるんですね! 具体的にどんな活動をしているのでしょうか?

プロコーチが8人ほどいて、ノンプロ研に入会したばかりの方を対象に、「今後どういうプログラミング学習をしたいか?」をテーマとした体験コーチングを行っています。「悩んでいませんか?」「やりたいことをイメージできてる?」と問いかけながらフォローしていくイメージです。それに加えて、プロのコーチとしてノンプロ研の外へと活動の幅を広げている人もいます!

ーーさらに最近は、Podcastでの配信をスタートされました。とても落ち着く声でゆっくりとお話されているのが印象的です。

私はノンプロ研に入会してから、技術ブログを書き始めました。ただ、テーマが技術ですから、自分の思いや感覚的な要素はまったく入らず。もっと私のパーソナルな部分を出せるアウトプットをしたいと思っていたところ、ノンプロ研の仲間に「音声配信を始めるから、一緒にやろう!」と誘われたんです。

音声配信はまったく新しい経験ですが、やってみると意外と苦になりません。経営やプログラミング、コーチング、北海道のことなどネタに困りませんし、口に出して話すことで自分の考えが整理されるんです。

Twitterなどで「昨日の配信、聞きました!」と反応をいただくことがよくあって、リスナーがいることのありがたみを日々実感しています。みなさんが楽しみながら配信を聞いてくださっていること、私の人となりが伝わっていることがすごくうれしいし、これからずっと続けていこう! とモチベーションが上がります。

ーー次々と新しいことに挑戦されている辻さん。今後の目標はありますか?

単純にプログラミングのスキルを学ぶ段階は、ひと段落しました。今は、高橋さんが言う「働くの価値を上げる」に向けて、自分のノウハウをどう周りに伝え、人を育てていくか考えていきたいです。

さらに、私ならではのコーチングも追求していきたいと思います。コーチングに、例えばGASの勉強の仕方や技術ブログの書き方、音声配信のやり方などの要素を組み合わせられます。そもそも本職は会社経営ですから、マネジメントにまつわる相談も受けられる。これまで積み上げてきたキャリアとコーチングを掛け合わせた、新しい活動ができそうだと期待しています。もちろん、音声配信も続けていきます。これまでは私自身が伝えたいことを好きにしゃべってきましたが(笑)、今後はもっとリスナーのためになる配信を考えていきたいです。

どんなことでも、「長く続ける」ってすごく大変ですよね。この点は、音声配信もプログラミングも同じ。でも、楽しかったら無意識に続けるんですよね、人って。だから、まずは自分が心から楽しむのが最優先ですね。私にとっては、毎日楽しくてしょうがないノンプロ研。もう、辞めどきがまったくわかりません(笑)!

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。