昨年「国内でいちばん定時到着率(定時に航空機が到着した率)が高い」航空ネットワークに認定されたANAグループ。ANAエアポートサービスで国際線のオペレーションサポート業務を担当する宮里明日香さんは、この実績を支えている一人です。プログラミング未経験だった宮里さんがGAS(Google Apps Script)でツールをつくり、業務効率化を進めるまでになった経緯とは。ご本人にお話を伺いました。
データ分析の業務に、もっとうまくデジタルを活用したいと思っていた
ーー今回の越境学習プロジェクトに参加した理由を教えてください。
私は2022年11月までカウンターや搭乗口、バックオフィスで国際線の責任者業務をし、今は国際線のオペレーションサポートを行っています。メインの業務は、飛行機を定時通りに出発・到着させるために、ANAが持つ大量のデータを集約・分析して、仮説を立てたり改善策を考えたりすること。飛行機を安全かつ時間通りに飛ばすというANAの根幹に直結する仕事ですし、とくに国際便は海外の情勢と運航状況が連動して、変化が目まぐるしい世界です。
中でも、便ごとの行き先や座席予約率など、特定の条件に基づいてデータを抽出する作業がかなり煩雑なので、デジタルの力で効率化したいと考えていました。そんなある日、上司から「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会(ノンプロ研)というコミュニティと一緒に越境学習プロジェクトを開催するので、参加してみませんか」と声をかけてもらったんです。
業務効率化に役立つようなリスキリングをしたいとは思いつつ、勉強する時間を捻出できずにいたので、会社が挑戦するチャンスをくれるなんてラッキー! と思い、即決しました。
ーーASUKAさんはもともと、プログラミングの経験はあったのでしょうか?
Google スプレッドシート(スプシ)やGoogle スライドは日常的に使いますが、基礎的な知識しかなく、「GAS」と言われても何のことだかさっぱりわからないレベルでした。よく言えば伸び代しかない状態(笑)。プログラミングはこれまでの人生で触れたこともなく、正直「難しそう」というイメージでした。
ノンプロ研でも講座についていけるかどうか不安だったので、どの講座に参加するか、講師や社内の伴走者との面談で相談しました。結果、初心者向けの「GAS初級講座」と「スプシ関数講座」「はじめてのコミュニティ活用講座」の3つに参加することに。
完璧を求められないからこそ、学習を続けられた
ーー実際に越境学習プロジェクトに参加して、どう感じましたか?
いざGASを学び始めると、イメージが形になっていくのが面白かったです。できたツールを職場に持ち帰ったら、同僚にすごく喜んでもらえたのがうれしくて、最終的に「GAS中級講座」まで挑戦しました。参加してすぐにノンプロ研の雰囲気のよさを感じてホッとしましたし、学習についていけるかな? という不安はいつの間にか消えていました。
私はオンラインのコミュニティに入ること自体初めてで、しかも少し人見知りな性格です。「はじめてのコミュニティ活用講座」で、ノンプロ研でどう過ごせばいいのか教えてもらえたのも安心につながりました。
また、仕事も居住地もバラバラな仲間ができること、みんなで毎週一緒に学習することが新鮮でした。同じ講座を受けても、普段の業務が違えば生かし方も感じ方も違います。例えば「職場のみんなに使ってもらえるツールの条件は?」というテーマで意見交換した日もありました。
基本的に「職場のデジタル化を進めたいのに、できない」という歯がゆさを抱えている方が多いので、学ぶ意欲やモチベーションが総じて高く、居心地がよかったです。講座の外では部活まで行われていて、幅広い経験ができる場だと思いました。
ーー日常業務に加えて複数の講座を受講するなんて、大変そうです! 学習時間をどうやって確保しましたか?
働きながら、継続的に時間をつくるのはかなり難しかったです。講座が開催される20~22時はギリギリまで仕事をしていることも多く、終業後に会社で受講することもありました。学習後は記憶が新しいうちに知識を定着させたくて、通勤電車の中でアーカイブ動画を見て復習したり、休日に動画を見返したりと工夫しました。
学習時間を柔軟に設定できるのは、ノンプロ研の特徴の1つだと思います。有志のメンバーが集まって各自作業する「もくもく会」に参加すれば、宿題に向き合う時間も強制的に確保できます。
ーーいろんな仕組みで、挫折しにくい環境がつくられているんですね。
はい。また、完璧を求められないことも、私が学習を続けられた理由の1つです。講座の後は毎回宿題が課されますが、完璧に仕上げられなくても提出してOKというルールでした。だからこそ気軽に提出できたし、完成させられないまま時間が過ぎてしまう……ということもなく、講座を完走できました。
講座中も、講師の方から「これは応用編だから、今すぐ理解できなくても大丈夫」とか「挫折せずについてこられてすごいです!」と言っていただけて、初心者ながら少しずつ自信がつきました。とくにGAS中級は難易度が高いので、もし完璧を求められていたら、途中で挫折していたかもしれません。
プログラミングの知識がつくと、どんどんアイデアが生まれてくる
ーー学習を通して、ご自身の中で変化したことはありましたか?
考える力がついたと思います。ノンプロ研では、コードを書いてエラーが出たときに講師に質問すると、単純に答えが示されるのではなく「こうしてみたらどうですか?」「あの関数を入れてみたら?」と、私が手を動かしながら自分の頭で考えるように誘導してもらえるんです。そうやって知識がつくにつれて、私の中で「このコードを、あの作業に使えるかも」「こうすれば効率化できそう」と次々にアイデアが生まれるようになり、自分の成長を感じました。
スプシ関数も最初は初見の数式ばかりでしたが、すぐに業務に応用できそうなものが多く、学習しながらワクワクしました。例えば、他のシートのデータから欲しい情報だけをピックアップできるなんてとても便利ですよね。
ーーずっと手動でやっていたことを自動化できると、感動しますよね。最終的なアウトプットとしてはどんなものができあがりましたか?
GAS初級では、現場の係員に知識の定着のために実施してもらう知識テストをボタン1つで整えるツールをつくりました。頻度は月1回の作業ですが、工数が多いので、かなり作業を簡略化できたと思います。職場のチーム全員が使えるように、GASを知らなくても使いこなせるものにしました。
GAS中級講座では、社員番号を入れてボタンを押すと、その人宛ての定型文メールを送れるツールをつくりました。せっかくならGASとスプシ関数の両方を使えるツールにしたいと思ったのですが、GASとスプシ関数それぞれのメリットとデメリットを見比べながらつくり上げるのが大変でした。
ノンプロ研では、講座を完走した後に「卒業LT」というイベントがあって、参加者が自分のアウトプットを発表します。ほかの人がGASをどう使っているか、どんな業務に生かしているかなどが具体的にわかって、参考になりました。
ーー今後は、どうやって学びを続けていきますか?
航空会社はサービス業のイメージが大きいと思いますが、私の部署ではデータを活用する力や、そこから今後必要な施策を導き出す予見力が重要です。だから、誰もがデータ活用に必要な知識を持てる状態にしたいです。GASを勉強してみようと思っても一人では挫折しやすいと思うので、私が部署全体に広めていきたいですし、ほかの人にもコミュニティに入ることの価値を体験してもらえたらいいなと思います。
私がここまでやれたんだから、未経験者でも大丈夫。「こんなことができるなんて、すごい!」の気持ちを大事にして、簡単なことからトライして、少しでも業務効率化につなげていきたいです。