生成AIが急速に普及する一方で、その恩恵を十分に受けられていないと感じる人は少なくありません。AIを使いこなせる人とそうでない人は、どこで差がついているのでしょうか。自身も複数の生成AIを徹底活用しているタカハシノリアキは、その答えは「本気度」にあると指摘します。
メールの自動作成や議事録の要約機能だけでは、心は動かない
――AIを仕事で活用するという文脈では、単純なタスクの効率化がよく例にあがります。例えばメール作成の効率化や議事録の要約など。正直、せっかく新しいテクノロジーを使うのにあまりワクワクしないのですが(笑)、これはなぜでしょうか。
そういう汎用的なテクニックも便利だし、大事です。でも、それだけでは不十分ですよね。多くの人にとって、メール作成や議事録要約は「AIがやってくれるなら、少し楽になるかな」という程度のもの。自分の仕事の中核にある「こだわり」や「情熱」とは、少し距離があるんじゃないでしょうか。
そうなると、一時的な感動はあっても、継続的にAIに触れたい、より高度に使ってみたいという意欲にはつながりにくいと思うんです。テクニックの前に、マインドセットの部分を変えてみるといいんじゃないでしょうか。
AI活用のエンジンは「こだわり」と「明確な目標」

――では、どうすればAIを真に使いこなせるようになるのでしょうか?
いちばんおすすめなのは、「自分が本気で取り組んでいること、ここは誰にも負けたくない、もっと良くしたいと強く思っている仕事や課題」に、AIを徹底的に活用してみることです。
AIをいまいち使いこなせていないと感じる人の多くは、きっとこの経験をしていないんですよね。なんとなく仕事をしているだけだと、AIを「使いこなす」レベルには到達しにくいと思います。
でも、仕事に対して「このアウトプットだけは絶対に高いレベルでやりたい」「この仕事は誰にも負けたくない」といった強いこだわり、本気度があれば、変わると思います。自然とAIの力を借りる発想になるし、「AIをもっとうまく使うにはどうすればいいだろう?」「他のAIはどうかな?」「どんなプロンプトが有効なんだろう?」と、試行錯誤を始めるはず。そうやって複数のAIを試しているうちに、自分にとって最適な使い方が見つかります。
――AI活用の大前提として「仕事に対する本気度」が大事なんですね。タカハシさん自身が、そのことを感じた経験はありますか?
僕が主宰している学習コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)の戦略をつくったときです。ノンプロ研が目指すゴールを設定し、Geminiの「 Deep Research」機能に現状を分析してもらい、さらに「どうやってゴールにたどり着けばいいか」をレポートしてもらいました。
Geminiが出してくれた成果は本当にすばらしくて、感動モノでした。正直「Geminiは、誰よりもノンプロ研のことを客観的に分析してくれる」とまで感じています。
これだけの成果を得られたのは、僕自身に「ノンプロ研を、コミュニティとしてもっと良くしたい」という強い思いがあること、すなわち本気度が根底にあったから。だからこそ、AIの可能性を最大限に引き出そうという努力ができたし、満足いく結果を出せたんだろうと考えています。
生成AIはどれも、こちらが十分な情報量を与えさえすれば、クオリティの高い提案をしてくれます。ただ、情報が足りなければ最大限の力を発揮できない。つまり、AIに期待するなら、自分自身も頭の中を整理し、言語化できるように向き合う必要があると思います。
「目標設定」から始めるノンプロ研のAI講座
――ノンプロ研では、新たに「初心者IT基礎講座【生成AIコース】」をスタートしたそうですね。

はい。このコースでは、AIごとの特徴やプロンプトの書き方といったテクニックを学ぶ前に、まず「自分がAIを使って本気で達成したい目標は何か?」を設定する時間を設けています。全4回のコースですが、1回目は“目標を決める”ことに焦点を絞って120分の講義を行いました。
プログラミングもAIも同じで、目標が曖昧なままテクニックを学んでも、「なるほど、こういうものか」と低いレベルの学びで満足してしまうんです。しかし「AIを使ってこれを実現したい!」という明確なイメージがあれば、おのずとよりよい使い方を探したりプロンプトを工夫したりする探究、挑戦につながります。
自分が何にこだわっているかわかっていれば、どのAIが良いか、どう使えば効果的かを明確に判断できます。自分の中に基準があるからこそ、「このAIはこの点がすごい、でもこの点はまだ足りない」と、切り分けて考えられるんですよね。結局、テクノロジーを使いこなすってそういうことだと思います。
3月には、講座のプレイベントとして、1日完結の「非ITビジネスパーソンのための生成AI入門講座」をやりました。生成AIを使い始める最初の一歩から、実際に活用にいたるまでの「生成AIとの付き合い方のコツ」をお伝えするものです。約40名の方に参加していただき、盛り上がりました!
コミュニティで共有される「生きた情報」

――AIの勉強には、いろんなやり方があると思います。ノンプロ研のようなコミュニティに所属してAIを学ぶことには、どんなメリットがありますか?
今、いろんなメディアやSNS、ブログなどにAIに関する情報が溢れており、いわば玉石混交の状態です。その中でノンプロ研のようなコミュニティの強みは、メンバーが「本気で取り組んだ成果や、その過程で得た学び」がリアルタイムで共有されることです。
仲間の「こういう目標を立てて、このAIをこう使ったら、これだけの成果を得られた」という具体的なストーリーが見えると、すごくいい刺激になります。そういう「生きた情報」に、日常的に触れる価値は本当に大きいです。誰もが当てはまるように一般化された情報や収益目的で最適化された情報とは、重みが違うというか。自分もやってみたいと意欲が湧いたり、モチベーションが高まったりするきっかけにもなります。
その繰り返し、積み重ねで、やがて大きな差がつくと思います。
「誰にも負けたくない部分」に全力投球しよう
AI活用に壁を感じている人は、まず自分が「普段の仕事の中で、時間や労力を惜しまず、こだわりを持って取り組んでいること」が何なのか考えてみてほしいです。そして、そのポイントにAIを使ったらどうなるか、どんなメリットが生まれるか、自分の手を動かして徹底的に試してほしいですね。
プロンプトや裏技的なテクニックを探す前に、「ここだけは誰にも負けたくない」というポイントに全力投入してみる。それが、AIを戦略的に使えるようになるための、いちばんの近道だと思います。
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