派遣社員として職場を渡り歩いた末、たどり着いたレガシー企業で13年間勤務した森本夏子さん。そして2024年、かねて憧れていたブレインテック企業に転職を果たしました。3回のチャレンジを経て、見事勝ち取った憧れの椅子。その挑戦について伺いました。
広い分野の勉強が苦手で、解決策を考えた末「神経科学」に出会った
――ブレインテックのベンチャー企業で働いている森本さん。神経科学に出会い、惹かれたきっかけを教えてください。
前職のハウスメーカーで派遣社員として働きながら、基本情報技術者の資格を取ることにしたのがきっかけです。会社でうまく業務効率化するために、前提として正しい情報学の知識が必要だと思ったんです。どうして働きながらでもモチベーション高く資格勉強ができたかというと、私は得をしたり効率的に手抜きをしたりするのが本当に好きだからです(笑)。
一度正しくマクロを組めば、複雑な作業や計算がすぐに終わります。仕事が一気に片付くし、ヒューマンエラーも防げるなんて最高じゃないですか。ずっと手動で大量にコピペしていた作業があっという間に終わるなんて、快感です!
でも実は、勉強があまり好きじゃなくて(笑)。狙った分野をピンポイントで学ぶのは好きなんですが、広い分野の勉強をするのは苦手で。だんだん「勉強も自動化できないか?」と考えるようになりました。
そこで見つけたのが、神経科学です。何かしらの方法で、私の脳みそに直接情報を書き込むことができれば、すごく楽に勉強できるんじゃないかなと。脳科学の本を読んで調べると、難病患者の脳に小型チップを入れたり、脳からデータを読み取ったりする技術が、すでに進んでいるとわかりました。これって本当にすごいことだ! とワクワクしたのを覚えています。
今度こそ、科学の世界に飛び込んでみたい!

――基本情報技術者の資格勉強をきっかけに、脳科学への興味が広がったんですね。
私たち世代は、これまで何度か大きなテクノロジー革命に立ち会ってきました。インターネットが生まれたときも、iPhone3が発売されたときも、最近の生成AIの盛り上がりも。私は毎回情報のキャッチは早い方なんですが、そのときどきで発展し始めている技術の界隈に入ることはせず、見送り続けてきました。だから、今度こそ飛び込んでみたい。そう思って、神経科学テックの分野でキャリアを積もうと決めたんです。
日本にある神経科学テック企業を探して、いちばん最初に見つけたのがX社でした。研究者が立ち上げた会社で、AIの開発を行ったり、神経科学の国家プロジェクトを受託したりしています。とくにユニークなところでいうと、例えば脳波計によるGmailの操作実験を行っています。面白い会社だなと心惹かれて、一気に“推し”になりました。
そのあと神経科学のセミナーやブレインテックのイベントを見に行ったら、X社の社長が登壇していて。そこで聞いた、意識やブレインテックのお話がすごく面白かったんですよね。社長をはじめ、周りの方々も利他的なんだなと思いました。
X社は、人間の生活がよりよくなることを真剣かつピュアに願っているメンバーが集まっています。例えば、ALSの患者が自分の意思を周りに伝えられるようになるとか、精神疾患の患者の辛さを軽減できるとか。これだけ分断が進んでいる世の中で珍しいくらいのあたたかさを感じて、「私もX社で働きたい!」と思うようになりました。
新しいことを知るのは、まるで世界の袋とじを開けるみたいで楽しい

――X社で働きたいと思った森本さん。実際に面接を受けるところまで進んだきっかけを教えてください。
ある日、X社の研究部門の事務職で求人が出ていると知りました。すぐ応募したところ、最終面接まで進めたんですが、結局最後に落ちてしまいました。落ちた理由は、英語力が足りなかったからだろうと見当がつきましたね。
それから1年弱経ったころ、X社の営業部門の求人が出ました。2回目だから今度こそ……! と思って挑戦するも、なんと一次面接で落ちてしまいました。またちょうどそのころ、前職の職場で環境の変化があって。よりいっそう、X社への想いを募らせることになりました。
そしてその1カ月後に、営業事務の求人が出たんです。これにトライするなら、X社を受けるのは3回目(笑)。でもここまで本気で好きになった会社なんだから、ここで諦める必要はないと自分を奮い立たせました。
個人的に入っているコミュニティ「ノンプロ研」(ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会)に心強い仲間がいるので、みんなの力を借りながら、念入りに準備を進めました。X社から「もう来ないで」と言われるまでやりきろうかなと(笑)。
当時1回目の面接から1年ほど経っていて、私の弱点だった英語力も少し進歩していたんです。TOEICの点でいうと100点ほど上がっていて、面接で「前回よりも少しスキルアップしました!」と言える要素になると思い、X社に再突撃する決意につながりました。こうして、3回目の挑戦でなんとか内定をもらい、2024年3月にX社に入社しました。
ーー3回挑戦するという粘り強さはすごいですね。神経科学に関われるなら他社でもいいという考えはありませんでしたか?
周りからもよくそう聞かれましたが、私はX社じゃなければダメでした。ただ居場所を変えることを目的に転職活動しても、正直あまりワクワクしなかったんです。執着できないというか。
X社のメンバーは私と同じで、社長の人柄やビジョンに惹かれてくる人が多いです。それにみんな、とても優秀な人ばかり。毎日刺激的でいろんな学びがあり、楽しく働いています。これからも、X社という環境でいろんなことを知りたいです。新しいことを知るのって、まるで世界の袋とじを開けるみたいで楽しいですよね。それを実務にも生かせるのは、社会人ならではのメリットだと思います。
内部監査は孤独な仕事…愛社精神が生きている

――X社に入社して、森本さんはどんな業務を担当しているんですか。
営業事務と内部監査が半々です。内部監査の仕事は未経験だったので、すべてが新鮮です。内部監査は、社内のことにとても詳しくなる部署です。全部門の機密を知ることになるので、ある意味、孤独なポジションですね。
そして情シスと一緒で、問題が起こらないのが当たり前。いざ何か起きたらネガティブに見られる辛さはあります。もしほかの会社で内部監査を担当していたら、辛くて辞めていたかもしれません(笑)。私はX社が大好きで愛社精神が強いので、耐えられているんだろうなと思います。
内部監査には、膨大な知識も必要です。例えば監査やリスク管理、コンプライアンス、IT全般からデータ分析まで、幅広い分野にわたります。神経科学がもっと進化して、ボタン1つで脳に知識をインストールできる世の中になったらいいなと思います(笑)。
内部監査を担当したことで、業務改善に対する考え方が少し変わりました。再現性のない業務効率化は、会社という組織全体を見れば歓迎されません。それが、内部監査の立場になって改めて理解できました。経営者から歓迎してもらえるよう、正しく説明できる状態にしておきたいと思うようになりましたね。
――入社前に得た知識やスキルは、X社のキャリアとつながっていますか。
私は基本情報技術者の資格と簿記2級を持っているので、「情報と経理の基礎知識がある」という理由でX社からオファーを受けたんだと思います。2つとも、40歳を超えてから取った資格です。
資格を取ったのは、キャリアアップしたいからではなくて、ただ知識がほしかったからです。前職の正社員登用試験に有利になるという狙いもありましたが、それ以上に、自分に知識が足りないと思っていて。半分趣味で取ったような資格ですが、意外と評価してもらえるし、キャリアにも直接的に影響するんだなとわかりました。
――その時々で向き合ってきた学びが、時を超えて今のキャリアに生きていますね。次は、プログラミングとの出会いについてお伺いします。ありがとうございました!