「仲間とのつながり」と「学ぶ場」さえあれば、誰だってIT人材に。 ノンプロ研×こまちIBASHO研コラボイベントレポート#2

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最近よくいわれる「IT人材不足」。ビジネスの現場にも地域社会にも、ITスキルを持つ人がいないという課題が根強く存在します。でも実は、ITの専門職ではなくても、環境とモチベーションさえ整えば誰でもIT人材になれる可能性があります。「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)主宰のタカハシノリアキが、その真意を語りました。

※この記事は、2025年5月31日(土)に行われた「ITと人でどう居場所の可能性が広がる?~人と人とがつながるために~ ノンプロ研×こまちIBASHO研コラボイベント〜」の内容から構成しています。

現場にも経営レベルにも「IT人材がいない」深刻な問題

実は、日本のビジネスの現場にはいまだに分厚い「ITの壁」があります。まず、日本のITは社外に委託するのが主流です。情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」によると、コア事業のうち内製の比率は24.8%にすぎません。アメリカでは53.1%が内製しているので、大きな差があります。例えば製造業なら生産管理、流通業なら需要予測やECサイトの管理など、コア事業に直結する部分すら自社で開発できていないというのが日本の現状です。

それがなぜかというと、日本企業にはIT人材がとても少ないからです。多くのIT人材はベンダー企業に属しているんですよね。さらに、役員レベルになるとITの知識がない人がほとんどです。

ITに見識がある役員の割合について、72.2%の日本企業が「3割未満」と回答しています。アメリカでは38.9%が「5割以上」と答えており、対照的です。意思決定層がITをわからないから、DXやIT活用を現場が提案しても、結局進まないのだと思います。

つながりと学ぶ場さえあれば、ノンプログラマーでもITは学べる

タカハシノリアキ
一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事。コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰。

ーーそんな中で、個人が自主的にITスキルを学ぶのはかなりハードルが高いように思います。

そうなんです。ノンプログラマーがプログラミングを学ぼうとすると、その環境はけっこう過酷です。忙しくて勉強する時間が取れなかったり、正しい学習方法なのかわからないまま進めてしまい不安になったり、誰にも相談できず困ったり、努力しているのに周りから評価されず辛かったり……。せっかくチャレンジしても、孤独を感じて早期に挫折してしまう人が多いです。

そこで僕が思いついたのが、「孤独なノンプログラマーが集まる場をつくろう!」ということでした。孤独ゆえの辛さを感じている人は全国にいるはず。オンラインなら全国から集まれますから、自由度高くつながれるんじゃないかと思ったんです。

逆に、仲間とのつながりと学ぶ場さえあれば、ノンプログラマーでもITは学べます。コミュニティという居場所をつくることで、孤独感を減らしたいと思いました。これが、2017年12月にスタートしたオンラインコミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)の始まりです。ノンプログラマーが少しでもITを使えるようになれば、極論、日本はIT大国にだってなれると思うんです。

半年、1年と続けられれば、自分でもびっくりするくらいスキルアップします。たとえつまずいても、一緒に学ぶ仲間がいればそれ自体が支えになるので続けやすいです。例えば「まずは3カ月頑張ってみよう」と具体的な目標を決めてスタートするといいですね。

ーーノンプロ研はオンラインコミュニティなので、参加者の属性はバラバラですよね。

イベント当日の様子。参加型のイベントで、意見交換も活発に行われました!

ノンプロ研メンバーは、住んでいる地域も職業も年齢も興味のある分野もそれぞれ違います。共通点は、みんな自主的にプログラミングを学んでいること。その意欲の高さ、本当にすばらしいですよ。

使っているコミュニケーションツールは、主にZoomとSlack。メンバーの熱意がすごくて、活動はかなりアクティブです(笑)。毎日2,3個のイベントが開かれています。プログラミングを学ぶ講座のほかにも、部活動やオフラインイベント、有志メンバーが集う勉強会、山梨県での自然体験合宿など、活動はかなり幅広いです。

200以上あるすべてのチャンネルを参加者全員が見られる仕組みになっています。オープンな環境で安心して参加できるし、全員同じ情報量になるのが大きなメリットですね。初心者の方には、参加するイベントの選び方やコミュニティの活用の仕方などをお伝えしています。

「私にもできるかも」と思えるようになる

プログラミングは、車の運転と似たようなもので、教習所(学習する環境)に入って正しく練習すれば、誰でもできるようになります。でも、なぜかみんな「自分にはできない」と思いがち。それは、自分の周りにできる人がいないからだと思います。プログラマーと同じレベルになる必要はありません。ただ、挑戦するマインドは大事だと思いますね。

ノンプロ研のような学習コミュニティに入るメリットとして、僕は「4回転ジャンプ理論」を提唱しています。自分には到底無理そうと思っていたことも、誰かができているのを見ると「もしかして、私にもできるかも」と思えるんですよね。みんなが当たり前に取り組んでいるような環境に飛び込んでみると、世界が変わると思います。

ノンプロ研には、会社員だけでなく中小企業の経営者や建設現場で働いている方、農家の方などいろんなメンバーがいます。みなさん、年単位の長いスパンで見ると、その方自身も所属する組織もかなりの変化を遂げています。

大小いろんな学習コミュニティが、全国各地に生まれたらいいですよね。そう思って、ノンプロ研では「学びのコミュニティづくり講座」を開き、勤め先の会社でコミュニティをつくりたい人たちを後押ししています。

とにかく手を動かして、AIにさわってみよう

最近は、AIが本当に激しい進化を遂げています。AIは今や、すべての仕事で使えるようになってきました。AIが画期的なのは、世の中に蓄積されてきた情報のほとんどが入っていること。そして誰でもいつでも、そのシステムと自由にコミュニケーションできるということです。それをどう仕事に生かすかは自分次第だし、難しい問題です。

僕は、とにかくみんなにAIを使ってほしいと思います。とくに地域活動とAIは相性がいいはずです。地域活動は、何か強い想いや解決したい課題の元にやっている方が多いですよね。一方でビジネスは、お金がいちばんの目的になります。AIと壁打ちしながら新しいものを生み出していく姿勢は、ビジネスよりもむしろ、こまちぷらすさんのような地域活動に近いと思うんです。

最近のAIはすごくいい相談相手になるし、クオリティが高く、できることがたくさんあります。どんどん活用してみてほしいです。

ーータカハシさん自身、最近はAIをどうやって使っているんですか?

講座の開発に使っています。企画書をつくってAIに渡すと、改善点を具体的に教えてくれます。そこに、僕がノンプロ研で実践してきたノウハウと、たくさんの研究者が残してくれた理論を掛け合わせると、講座の充実度がぐっと上がります。僕の考えや発想だけでは足りないパーツを、AIに補完してもらっている感覚ですね。

それから、書籍の原稿を書くときにも使っています。これまで書籍は数冊書いてきましたし、ブログは日常的に発信してきました。AIに「僕の立場と書き方で、これを書いて」と頼めば、かなりいい原稿をアウトプットしてくれるんです。書くという作業が根底から変わりつつあるなと実感します。

AIのクオリティがかなり高くなってきた分、逆に、人間の役割もしっかり考えないといけません。そこが本質であり、すごく難しいところです。最近では一見「これはAIよりも人間のほうができるだろう」と思うような分野も、意外とAIのほうが優秀だったりします。もはや「この領域は人間のほうがいい」と言い切れなくなってきました。とにかく手を動かして実験しながら探っていくしかありません。

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。