いまだに根深く残っている「企業の意思決定層に女性が少ない問題」。解決の糸口はどこにあるのか、ノンプロ研(ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会)主宰のタカハシノリアキさんと、Waris共同代表・田中美和さんが対談を行いました。2人の本音トークから見えてきたものとは?
<田中美和さん>
国家資格キャリアコンサルタント。2013年よりWaris共同代表、2017年より一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事。Voicyパーソナリティとして「自分らしいキャリア100のヒント」を定期的に配信している。Twitterアカウントはこちら。
身近で切実な課題意識が、ブレない軸になる
タカハシ 田中さんがWarisを創業されたきっかけは、何だったのでしょうか。
田中 私がWarisを立ち上げたのは2013年のことでした。当時はまだ、「働き方改革」という言葉がない状況。女性3人で共同創業して、今も同じ体制で続けています。周りに、ライフとキャリアの両立に悩んでいる女性がすごく多かったのがきっかけです。「この会社でずっと働いていけるのかな?」「子どもを産むなら、自分のキャリアは諦めなきゃいけないのかな?」と悩んでいる方がたくさんいたので、その悩みをなんとか解決したいという思いでした。身近な課題意識から創業したという意味では、タカハシさんがプランノーツを創業されたのと似た経緯かもしれません。
タカハシ 僕も、たくさんの人がITスキルを身につければ、もっと幸せに働けると考えて創業しました。こうした切実な思いは、事業をするうえでもぶれない軸になりますよね。Warisでは、どんな事業をされているんですか?
田中 創業時からのコア事業は、フリーランスとして働きたい女性と企業の仕事のマッチングビジネスです。今では26000人ほどの登録者がいます。さらに育児や介護、転勤などで離職中の女性の最就職を支援する「ワークアゲイン」や、役員として働きたい女性と企業をマッチングする「Warisエグゼクティブ」、リスキリングのプログラム事業などに拡大しています。事業は幅広いですが、1人ひとりの人生がより豊かになるように、「働く」という切り口から支援しています。
タカハシ 女性のキャリアに対する考え方は、この10年で大きく変わってきたように感じます。今では自分らしいキャリアを持って活躍する女性がたくさんいらっしゃいますが、2013年当時は状況が違ったのでしょうか?
田中 はい。私はもともと出版社・日経BPの社員で、雑誌『日経ウーマン』を担当していました。女性読者のリアルな声を取材する日々で、みなさんがいかに「ライフとキャリアの両立」に悩んでいるか、身をもって知りました。社会全体に「責任ある仕事をしたいなら、長時間労働が当たり前」という、昭和的な価値観が色濃く残っていた時代です。
タカハシ 読者の声から、課題を感じ取られたわけですね。僕も社会人になってから、生きづらさや働きにくさを抱えている人がこれほど多いのだと、厳しい現実に直面しました。それをなんとか解決したいという思いは、僕たちの共通点ですね。
「課題解決そのものを仕事にしたい」と考えるように
田中 私にとっては、東日本大震災も大きな契機でした。2011年3月11日、何か巨大な力によって人生が突然終わってしまうこともあるんだと思い知らされたんです。誰にとっても一度きりの人生なら、心からやりたいことに挑戦したいなと。
それまで『日経ウーマン』の編集部で「発信する」仕事にやりがいを感じていましたが、だんだん「課題解決そのものを仕事にしたい」と考えるようになりました。それで日経BPを辞めて独立し、「女性が生き生き働く社会を作りたい」と考える中で、仲間と一緒に共同創業者としてWarisを起業することにしました。
タカハシ 雑誌の編集から起業とは、大きなキャリアチェンジですよね。たくさんの選択肢がある中で、「フリーランス」に注目されたのはなぜですか?
田中 フリーランスは働く場所と時間、両方の自由度が高い働き方ですが。とくに30〜40代の女性は、育児や介護、配偶者の転勤などのライフイベントによって外的な影響を受けることが多いので、フリーランスがぴったりなんです。逆に正社員としてリモートワークできる環境は、10年前の日本では特殊でしたね。そして何より、私自身がフリーランスになってその良さを肌で感じていたので、世の女性たちにも紹介し、働き方の選択肢の一つにしてほしいと思うようになりました。
タカハシ 田中さん自身がフリーランスの良さを実感されていることで、より説得力が生まれていますよね。逆に、企業側はどういうニーズを持っているのでしょう?
田中 Warisのクライアントは、約7割が中小企業とスタートアップです。さらに、マーケティングや人事、PR、経理・財務などいわゆるビジネス系の職種で、週に2〜3日コミットしてほしいというニーズが多いです。PR部門を立ち上げたい、デジタルマーケを強化したいと思っていても、ノウハウのある人材がいなかったり、そもそも人手不足で手を出せなかったり。とくにスタートアップは組織規模の拡大がスピーディなので、正社員だけでは仕事をさばききれないケースが往々にしてあります。
タカハシ フリーランスというとクリエイターが多いイメージがありますが、ビジネス系の職種とは意外でした。マーケティングや人事、経理のキャリアを持っている方が多いんでしょうか?
田中 そうですね、マーケティングや経理、人事といった職種は比較的女性が多く、かつ専門性を育みやすい職種と言われています。Warisの登録者のうち、すでにフリーランスとして活動している方が約4割、会社員として勤めている方が5割弱、それ以外は離職中という比率です。「週5でコミットする必要はないが、確実にノウハウのある人材がほしい」という企業と、こうした方々がぴったりフィットするんです。
1人でも多くの女性が意思決定の場に入っていくことが大事
タカハシ 社員として勤めている方もかなりいらっしゃるんですね。副業でキャリアを積みたい人が増えている証でしょうか。一方で、女性がキャリアを築く上では、まだ課題が山積していると聞きます。
田中 未だにたくさんあります。第一子出産前後で仕事を辞める女性の割合は、2021年時点で34.7%にまで下がりました(※)。一方で、現場のリーダーやマネジメント層、いわゆる「意思決定層」に女性が少ないのは大きな問題です。海外と比べても、その傾向は顕著です。※出典:リクルートワークス研究所 2022年12月13日発表「女性の第一子出産離職率」
タカハシ 例えば「役職者になり、もっと仕事にコミットしたい」「リーダーシップを発揮して、経営に携わりたい」と考える女性が、その思いを遂げづらい環境になってしまっているわけですね。企業が女性を意思決定層に招き入れることのメリットは、どんなところにあるのでしょうか?
田中 まずはジェンダーの偏りがなくなることです。長らく男性だけで行われていた議論がもっと多角的に、豊かなものになるでしょう。また、役職を得てロールモデル的な役割を果たす女性が生まれることで、ほかの女性たちはもちろん、何らかのマイノリティであるメンバーへの励ましにもなります。私たちが「Warisエグゼクティブ」のサービスを始めたのも、日本企業の意思決定の現場に、1人でも多くの女性を送りたいという思いからです。
実際、とあるフィットネス関連の企業は「当社には女性の顧客も多いのに、役員には女性がいない」として「Warisエグゼクティブ」を導入くださいました。先日、「社外取締役に女性が入ったことで、取締役会の議論に深みが出た。また、現場で働く女性スタッフへの勇気づけにもつながった」とのフィードバックをいただきました!
「非正規=女性」と役割が固定化されてしまう現状
タカハシ 非正規雇用率は、男性よりも女性のほうが高いんですよね。その背景には、女性がいまだに育児や家事の多くを担っているという現状もありそうですね。
田中 この状況が続くことで「非正規=女性」と役割が固定化されてしまい、バイアスが再生産されかねません。また、非正規はどうしても報酬が低くなります。いまだに男女の賃金格差が埋まらない要因の1つだと思います。正規がよくて非正規はダメということは決してありませんが、ここまで明らかな偏りがある現状は、やはり問題です。
タカハシ 本来、性別によらず正規雇用と非正規雇用を柔軟に選べたり、ライフスタイルの変化に応じて行き来できる社会が健全なのだと思います。Warisさんが提供しているサービスはありますか?
田中 はい。Warisはまさにその観点から「リスキリング」に着目しています。例えば非正規雇用の方が正規雇用に転換したいと考えたとき、リスキリングで新しいスキルを身につけるのが有効でしょう。Warisは、外部のパートナー企業と組んでリスキリングにまつわるプログラムを提供しています。
タカハシ リスキリングは、業界や世代を超えて注目されていますね。ありがとうございました!
※この記事は、2023年2月14日のVoicy配信を元に構成しました。タカハシノリアキさんのVoicy「『働く』の価値を上げるスキルアップラジオ」はこちら、田中美和さんの「自分らしいキャリア100のヒント」はこちら。