本を2冊執筆、ノンプログラマーのHirocom777さんが感じた「コミュニティと講座の力」

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Hirocom777さんインタビュー

ノンプログラマーながら、技術同人誌を上梓したHirocom777(以下、Hirocom)さん。2021年の初書籍に続き、2023年5月には2冊目「CSVファイル読み込みで学ぶExcel VBA ADO入門」が完成。技術書が集まるイベント「技術書典14」でも販売されました。Hirocomさんならではの企画・編集が形になったこの本、執筆のきっかけは、ノンプロ研(ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会)の講座だったそう。同人誌にかける想いについて、Hirocomさんに話を聞きました。

同人誌を執筆したきっかけは「ノンプロ研の講座」

ーーHirocomさんが技術同人誌を書くのは、2冊目だそうですね。

はい、1冊目は2021年に、ワンボードマイコンについてのマニアックな同人誌を書きました。オンライン開催でしたが、技術書典で販売しました。今回と同じく、ノンプロ研の「技術ライティング講座」の集大成として企画したものです。

「技術ライティング講座」は、技術に関する文章を書くスキルを身につけることを目的にしたものです。SNSの使い方や書くネタの集め方、文章を書くコツに加えて、執筆データを管理する「Git」やそれを共有する「GitHub」などの使い方も学びます。そして、この講座の受講者に最終課題として課されたのが、書籍の企画書作りでした。企画書が承認されれば、それを元に同人誌を書くことになります。レアな経験ができる、ノンプロ研の中でもとてもユニークな講座です。

2021年1月、この講座が始まりました。僕が個人的に書いているブログの記事をまとめて同人誌に仕上げられたら新しい挑戦になるし、とても面白そうだと思ったので参加を決めました。修了後にノンプロ研主宰のタカハシさんに企画書を提出し、調整を経て、13本のブログ記事をまとめる形で1冊目の同人誌の執筆をスタートしました。

ーーそして2冊目は、CSVとADOをテーマに選びました。

ノンプログラマーでも、CSVファイルを触ったことがある人は多いでしょう。CSVはテキストデータをカンマで区切って表示する、すごくシンプルなファイルです。テキストだけのデータなので汎用性が高く、Windowsの「メモ帳」アプリでも開けますし、初期設定でExcelに紐付けられているので簡単に開けます。

Hirocom777さんインタビュー

ただ、CSVをExcelで開くと、データが意図しない形に変換されてしまうことがあります。例えば文字化けしてしまったり、先頭の「0」が取れてしまったり、ただの数値が日付に変わってしまったり。特に値そのものが変わっている場合は、ファイルの読み込み時に変換が起きた結果なので、書式設定をいじっても元には戻りません。

ーー正直、CSVはよく文字化けするという印象があって、使うのを避けていました。

そういう方は多いと思います。CSVは知名度が高い分、何らかのトラブルに悩まされている人も多く、苦手意識を持ってしまうケースが少なくありません。その解決方法として、同人誌で「ADO(ActiveX Data Objects)」を紹介することにしました。

ADOはMicrosoftが提供している、データベースにアクセスするためのライブラリで、Windows版のExcelには標準で付いてきます。ADOを使えば、CSVを意図した通りの形で開くことができます。さらにデータベースの手法を生かせば、ハイレベルなデータ活用もできるようになります。そこで、CSVの扱いに困っている方々に向けてADOを広めようと考えたのが、企画のきっかけです。

CSVを切り口に、読者をデータベースの世界に誘いたい

ーー便利なツールはいくつもある中で、なぜADOに着目したのでしょうか?

CSVの取り扱いという身近なtipsを切り口にしてADOを紹介し、読者を徐々にデータベースの世界に誘いたいと考えたんです。この観点から詳しくまとめた書籍はほとんどないので、情報としても価値があると考えました。

ADOはとても便利ですし、一度理解すればそう難しいものではありません。日常業務で使っていた僕からすれば身近なツールです。ただ、そもそもデータベースを取り扱うためのライブラリなので、一般的にはあまり知られていません。ノンプログラマーやIT初心者にはどうしてもとっつきにくいんですね。だからこそ、とにかくていねいに説明することを心がけました。

Hirocom777さんインタビュー
同人誌の書影。明るいブルー基調に、イラストを添えたやわらかいトーンで、手に取りやすいデザインです。

ーーADOのメリットには「データベースの手法を生かせる」こともあるんですね。それは、具体的にどういうことですか?

CSVを開いて終わりではなく、自分の希望に合わせてデータを整理するということです。例えば特定の条件に合う行だけを読み込んだり、2つのCSVを結合して新しいデータをつくったり、CSVの中身を集計したり。ADOはプログラミングではないので、データを読み込んだ瞬間に結果が出ます。同人誌の後半では、こうした応用方法を具体的に紹介しています。

こういう活用の際に役立つのが「SQL」という言語ですが、SQLの初歩を教える書籍はすでにたくさんあります。本格的に学ぶなら膨大な勉強量が必要ですが、そこまでいかずとも「ちょっとだけ使える」という人が増えれば、それ自体に価値があると思います。まずはSQLの便利さを知ることが大事ですね。

ブログの記事を再編集して1冊の同人誌にまとめあげた

ーー2冊とも、ブログの記事をベースに加筆、再編集されたそうですね。Hirocomさん独自の手法ではないでしょうか。

1冊目の経験があるので、ブログ記事を再編集すればいい同人誌を作れるという手応えはありました。ADOを使ったCSVの活用については、2021年2月から1年ほどかけてブログ記事を約30本書いて追究していたので、それらをベースにすることに。技術ライティング講座の集大成として同人誌の企画書を書き、タカハシさんに提出して、半年かけて修正を繰り返し、練り上げていきました。

執筆の第一歩は、ブログを1記事ずつ読んでざっとまとめる作業ですが、この時点でたくさんの発見がありました。「ここはもっと肉付けしたほうがいいな」「この話はこちらにつなげて、ここは削除するとわかりやすいな」という感じで記事を編集し、ブラッシュアップしていきます。

だから、同人誌の構成はブログとはまったく違うものになりました。特に同人誌の後半に入れた、1つの事例をいろんなアプローチで見ていく部分は完全な書き下ろしです。

>Hirocomさんの同人誌「CSVファイル読み込みで学ぶExcel VBA ADO入門」はこちら!

Hirocom777さんブログ
Hirocomさんのブログ。装飾もあり、整理されたレイアウトです。大量の情報が、初心者にもわかりやすいようにまとまっています! ページはこちら。

ーーブログの全体的な構想は、どうやってまとめたんですか?

全体の構想は作りませんでした。テーマは明確にするが、全体構想はないというのが僕のやり方なんです。「どこまで続くかわからないけど、やってみよう」と書き始め、進めていくうちに頭の中が整理されていく。そして、知識が体系化するにつれて新しい疑問が出てくる。さらに出てきた疑問に沿って追究してみると面白いことがわかったり、新しい発見があったりするので、それを記事にするというサイクルを繰り返してきました。

途中で行き詰まってしまうこともありますが、自分なりに追究できれば1冊の本が完成する。書くことが学びのアウトプットになりますから、勉強法としてもいちばん効率のいい学び方だと思っています。

ブログを続けてこられたのも、ノンプロ研あってこそ

ーー執筆にあたって、ノンプロ研からのサポートはありましたか?

書いた原稿をGItHubに上げると、タカハシさんがチェックしてくれます。僕の場合は、企画書の時点で相当練り込んでいたので、タカハシさんからの指摘は軽い修正程度でした。執筆自体はVScodeというテキストエディタ―で行いました。すごく便利で、拡張機能を使うと書籍のレイアウトに合わせてPDF化したり、目次や奥付を入れたりといった作業が簡単にできるんです。

僕は同人誌も、その元になったブログも、すべて「マークダウン記法」で書いています。これは、記号を使って文章の構造を指示すると、装飾をつけた状態に仕上げてくれる便利な記法。noteやslack、はてなブログなどいろんなシステムに適用されているので使いやすいんですよ。

Hirocom777さんインタビュー

ーー表紙デザインもすごく素敵です。

コンペでデザイン案を募集して、候補の中からベストなものを買い付けました。ブルーがさわやかで、いいデザインですよね。とても気に入っています!

ーー執筆を通じて、ノンプロ研のコミュニティの力を感じることはありましたか?

ノンプロ研では、200人近くのメンバーが思い思いのテーマで学習しています。この環境に身を置くだけでもかなり刺激になりますね。また、わからないことをSlackで質問したり、逆に誰かに教えたりすることで、理解が深まります。同人誌の元になったブログも、ものぐさな僕が数年書き続けてこられたのはノンプロ研のおかげです。

ーー「技術書典14」への意気込みをお願いします!

自分の知識や企画を、本という形にして発表できる技術書典はすばらしいイベントです。本を出さなくても、参加すれば必ず何かしらの発見があり、新しい世界に出会うことができます。ぜひ、気軽に参加してみてください!

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この記事を書いた人

さくらもえ

出版社の広告ディレクターとして働く、ノンプログラマー。趣味はJリーグ観戦。仙台の街と人が大好き。