この夏7月から8月の全4回にわたり、関西では建設会社3社による「関西建設業界合同勉強会(以下勉強会)」が実施されました。
ノンプロ研内で行われた8月30日の定例会「業界DXを目指す!『関西建設業界合同勉強会』のつくり方」では、この勉強会の立役者でノンプロ研会員でもある、ファンテック加藤さんと三和建設江畑さんに、勉強会成功の秘訣や今後の展望についてお話しいただきました。
そこで本記事では2記事にわたり、イベントレポートとして当日の様子をお知らせします。
前半は、関西建設業界勉強会では企画と司会を担当されていた加藤さんの発表の様子をお伝えします。加藤さんからは勉強会成功の要因と、勉強会開催に至った背景や今後の展望についてお話しいただきました。
勉強会は大成功のうちに終了! その要因は?
「関西建設業界合同勉強会」は初めての試みにもかかわらず、受講生全員が卒業LTに素晴らしい発表をしてくれたり、発表者12名のほか、見学者20名のトータル30名ほどが参加。
当日は新聞社の取材も入る盛況ぶりでした。講座を通して実際に業務改善の具体的な行動が見られたほか、参加者の半数以上が今後講師やTAになりたいと積極的な意欲を見せてくれたそうです。
加藤さんの総評は「大成功」。大成功の要因について、受講生の方々の素晴らしさのほか以下のように分析されていました。
まず、運営側の加藤さん、江畑さんは勉強会前に「ノンプロ研のインストラクション講座」を受講し、「アウトプットが大切」「学習共同体を作ることが大切」などの効果的な講座運営の理論とスキルを学んだことが大きかったとのこと。加藤さん、江畑さん共に、目指したい講座のイメージも合致していたそうです。
その一方で、非ノンプロ研メンバーや異なる考え方の方も運営者として参加されていたため、講座で使うツール一つにしてもChatworkがいいのか、Slackがいいのかなど「なぜ、このツールを使うのか」「なぜこのツールではだめなのか」など細部をはじめ様々な議論を尽くすことができたそうです。運営側のMTGは計12回も開催するなど、高い熱量で勉強会開催に向けて取り組まれていました。
加藤さんは勉強会終了後に、運営メンバーに「勉強会の目的は何だったか?」をそれぞれ尋ねたところ、「GAS仲間を作りたい」や「自社の学習効率を上げたい」「事務メンバーが気持ちよく働けるようになりたい」など、みんな一人ひとり目的が違ったそうです。
それぞれが目的は違えども、各自の目的を達成する手段として、勉強会成功に向けて取り組めたのが良かったのではないか、と加藤さんは振り返ってらっしゃいました。
加藤さんはこれらの話をもとに、勉強会成功のコツ以下のようにまとめられていました。
ではなぜ、このような勉強会の開催が必要だったのでしょうか。加藤さんのお話が続きます。
勉強会開催が求められた背景は?建設業界の問題点とDXの進め方
建設業界の問題点
まず、建設業界の問題点として深刻な人材不足がありました。
求人票を出しても人が来ず、どんどん採用活動が苦しくなってきている状況から、これまでと同じ規模の仕事をするには、「仕事のやり方自体」を変える必要がある、10年後には今の半分の人員で同じ仕事をこなさなければいけないと感じられていたそうです。
しかし、ちょっとしたミスでも人命に関わったり、巨額の損失を計上してしまいかねないという業界特有の特徴があるがゆえ、建設業界では成功パターンに固執しがちで新しいことに挑戦しにくく、変化しづらいという体質でもあるようです。
また、現場での仕事がメインのため、PCへの転記が必要な紙のデータが多く、データ化されていても構造化されていなかったり、うまく活用されていなかったり…。せっかくの貴重なデータが打ち捨てられてしまっている状況なのだそうです。
データを活用するにしても、転記などで二度三度手間をかけることも多く、人手不足に拍車をかけているところの省人化が必要と感じているとのことでした。
DXの進め方
ではこの状況をどのようにDX化していこう、と考えればよいのでしょうか。
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」のこと。「デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」「既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの」とされています。
建設業界は人材不足なので強制的にDX化が進めざるを得ない状況にあります。加藤さんはこれまでの話から、建設業界のDXには、「既存の作業を効率化し、省人化を達成する」ことが必要であると考えています。
そこでDXをどのように進めるかを考えてみました。
DXはどうしてもお金と時間がかかるため、トップダウンで行われることが多々あります。現場の方、実務を担う側の人たちにITスキルがない、全体最適を考える必要がある等の理由で専門家ではないと難しいところがあったりするためです。
しかし、現場の作業の細かい困り事までは目が届かなかったり、システムが一元化されていなかったり、やり方がどんどん変わってしまったり…。トップダウンで行うDXの場合は、現場が疲弊してしまうことも往々にしてあります。
加藤さんは、トップダウンで行うDXには疑問を抱いており、システム開発ではドメイン駆動設計という言葉もあるように、実際の作業(ドメイン)を最も熟知している現場の方々が中心となって動くことでより良い環境を作っていくことが重要なのではないか、「建設業界では実際の作業のエキスパートである現場の方々からボトムアップでDX化をしていく必要があるのでは」と考えているということでした。
とはいえ、特に建設業の現場メンバーはITスキルが低いことが多く、そもそも何ができるのかがわかっていない、新しいことをやりたくない、という声もよく聞きます。でも、「みんな、楽にサクサク仕事をしたい」という想いは共通して持っているはずなので、加藤さんはここに着目されていました。
ITツールを取り巻く現状
現在のITツールは「ノーコード」「ローコード」「RPA」など様々なものがありますが、30年前と比較すると専門家以外も扱えるよう体系化されており、操作が驚くほどカンタンになっています。
少しの努力をして(ツールを効果的に利用することで)大きなリターンが得られるため、「現場メンバー、事務メンバーが自分たちの業務を改善できると、知ることが最も大事!」と加藤さんは訴えられていました。
自分たちのためにデータ活用を行えば、建設現場の貴重なデータも蓄積されて活用することができます。
合同勉強会開催のメリット
このような状況下で開催された勉強会ですが、どのようなメリットがあったのでしょうか。
加藤さんは以下の点をメリットとして挙げられていました。
・他社のメンバーが適度な緊張感をもたらされたことで、学習効果が高まった。応援や見学者による見られている感があったのもよかった。
・同業で似た境遇の人の仕事内容、取り組み、困っていることに触れることができ、自分と似た環境で頑張っている人の姿を見ることができ、視野が広がった。
・業界に合わせたレベルと環境を準備したため、レベル感が統一でき、「難しすぎる」「今のITスキルとかけ離れている」など言い訳ができない状況が作れた。
以上のように今回の合同勉強会はボトムアップからのDXであり、メリットのある手法だと強く実感されたそう。そこで似たような悩みの建設会社はたくさんあるため、3社にとどまらず建設業界に波及させれば更に業務改善効果が狙えるのではないかと考えているそうです。
加藤さんの挑戦 業界を変える取り組み
加藤さんは「『俺が建設業界を変えてやる!』なんて考えはない」「そんなことを言っても『バカなの?』と思われるだけ」…とは思いつつも、一方で「誰かが取り組まないといけないよね」という気持ちはずっと持たれていたそうです。
そして現在、加藤さんが取り組まれているのはこの2つ。
DX化は各社にとっても大きな問題で『建設業界』などと大きく捉えるのではなく、自分の会社のこと、自分の業務のことなど目の前の課題に取り組み、動き出すことが大切。身近なことだからこそ共感してくれる人も多い、と感じられているそうです。そうして違った分野から協力者が現れて、少しずつ挑戦のエリアが広がるんだなということを、勉強会や新しい試みのDAチャレンジャーズを通して経験されているとのこと。
加藤さんは、このような取り組みをしながらボトムアップのDX化を進めていく、と締めくくられていました。
以上、加藤さんの発表をお伝えしました。次の記事では江畑さんの発表をご紹介します。
なお、こちらの定例会の様子はYouTubeにもアップされています。
当日の実況ツイートもまとめられていますので、合わせてご是非ご覧くださいね。