近年注目されている「パラレルキャリア」。ノンプロ研をきっかけにパラレルキャリアを実現しているのが、きのぴぃさんです。具体的には、イベントの企画や運営、越境学習プロジェクトのコーディネーターなどを担当しているそう。ノンプロ研の運営メンバーとして大活躍しているきのぴぃさんに、自分の得意なことを生かしてキャリアにしていく面白さ、自分の世界を自由に広げていける楽しさなど、今感じている手応えについて聞きました。
楽しさ重視で開始、うまくいかなければ方向転換できる自由さ
――会社員であるきのぴぃさんが、パラレルキャリアをスタートされたのはどうしてですか?
僕は長年、営業の仕事をしてきました。営業のスキルは汎用的な点がメリットですが、逆に特定の資格にはなりづらい。これから歩むであろうキャリアコースが見えてきた頃から、「僕は本当にこのままでいいのだろうか?」と疑問を感じていたんです。
そんなときにふと、パラレルキャリアっていいなと思ったんです。転職や独立のようなリスクを負うことなく新しいことに挑戦できるし、例え失敗したって痛みが少ない。お金は主目的じゃないから、楽しさ重視でやってみて、もしうまくいかなければ方向転換すればいい。
――確かに、転職先が超ブラック職場だったら? 起業して失敗したら? と考えると恐ろしいです。
はい。その頃読んだ小島英揮さんの著書『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』(2019、日本実業出版社)でも、パラレルキャリアに触れられていて。僕がノンプロ研でやっているコミュニティ運営も、実はパラレルキャリアの1つなんだと気づいたんです。
――一方で、会社勤めを続けることにも大きな意義がありますよね。
はい、サラリーマンってすごく恵まれた立場だと思います。一人では到底できない規模の仕事に関われるし、毎日周りから刺激をもらえるというメリットは手放しづらいものです。だからこそ、パラレルキャリアによって少しずつ手足を伸ばして、自分の世界を広げていけたらいいなと。言い方を変えると、現実にうまく折り合いをつけるための、1つの手段だとも思います。
お金がほしくて副業を始める人もいますが、僕はそうではなくて、「せっかく好きなことだから仕事にしちゃおう」という発想。だから苦しさや辛さはなく、120%楽しんでやれています。新しいことに興味があればまずパラレルキャリアでやってみて、自分の適性や将来性の有無などを確かめて、本腰を入れようと思ったら舵を切るという順序がいいと思います。いろいろなリスクを抱えずに済みますよ。
どんなスキルも、必要としてくれる人が必ずいる
――パラレルキャリアに興味があるけど、自分には何ができるのか、あまりイメージできないという人もいます。
どんなスキルにも、必ずニーズがありますよ! 例えばコミュニティ運営の手伝いや子ども向けのプログラミング教師など……僕からすれば当たり前のことでも、必要としてくれる人がちゃんといる。適切な場所に行けば誰かの役に立てて、「ありがとう」と言ってもらえます。
つい「ほかの人にはできなくて、自分だけができること」を探しがちですが、そうじゃないと思います。ほかの人が10や20の労力を必要とする仕事でも、僕がやれば1や3で済むことがあって、きっとそれこそが自分の強みです。
教育改革実践家の藤原和博さんが「100人に1人のスキルを3つ持っていれば、それらの掛け算で、100万人に1人の人材になれる」と言っていました。必ずしもその分野のNo.1であり続ける必要はなく、自然に誰かの役に立てる場所で力を発揮していれば、道が開けると思います。
――そもそも、きのぴぃさんがノンプロ研に入ったきっかけは何だったのでしょうか?
独学でGAS(Google Apps Script)を勉強していたところ、ノンプロ研主宰・タカハシさんのブログ『いつも隣にITのお仕事』(『隣IT』)をよく読んでいました。ある日「コミュニティを始めます!」という告知を見て、これを機にスキルアップしようと思ってすぐに申し込みました。2017年12月、ノンプロ研が立ち上がった当日のことです。
その頃は、業務メールを自動送信したり、カレンダーに入っている予定を通知したりするツールを作っていました。また、僕は家庭の連絡ツールにSlackを使っているので、Slackと互換性の高いGASを使いたいなと。むしろこちらがメインでした。タカハシさんが掲げている「働くの価値を上げる」とはズレてますね(笑)。
――もともとプログラミングが好きだったんですか?
いえ。僕は本来、できる限りプログラミングを使わずに済ませたいタイプです(笑)。WindowsのフリーソフトやChromeの拡張機能を使って作業を効率化していましたが、だんだん物足りなくなってきて。GASを勉強し始めました。
そういうわけで、ずっと「隣IT」の記事を読みながら一人でコツコツ勉強していました。ノンプロ研に入って、誰かと一緒に勉強できること、わからない箇所を相談できる環境が手に入ったことがすごく心強かったです。
1年半で300回実施!プロコーチの資格を取得
――パラレルキャリアとしてもう1つ、プロコーチとしても活動されているそうですね。
長年営業の仕事をする中で、お客様やプロジェクトメンバーの話を引き出すことに奮闘してきました。またプライベートでも、子どもたちの話に耳を傾けるにはスキルが必要だと気づいて。2年ほど前から、僕の周りで話題になっていたコーチングに興味を持つようになりました。
ある日たまたまノンプロ研の仲間に誘われ、コーチングを受けてみたら面白くて。「これだ!」と思い、本格的に勉強することを決めました。1年ほどスクールに通って、最終的にプロコーチの資格を取りました!
――コーチングは、場数を踏むことも大事だと聞きました。
コーチングの理論を知っていることは大前提で、正論からはみ出す部分をカバーするためには、場数を踏むことが大事です。僕はこの1年半ほどで、300回以上やってきました。
コーチングを学んだことで逆に、絶対的なコミュニケーション方法なんてないんだと気づきました。コーチングはすべてをうまく引き出せる魔法ではないし、同じ関係性でも違うアプローチが合っている場合もある。時と場合による使い分けが必要ですね。
――コーチングのスキルを生かして、越境学習プロジェクトにも関わっているとか。
越境学習プロジェクトでは、最初に参加者一人ひとりが「目標設定」をします。そこでコーチングのスキルがあり、かつノンプロ研を知っている僕がコーディネーターとして入らせてもらうことになりました。
実際にやってみて感じるのは、コーチングの力がフルに生きているということ。僕から「こうしよう」と提案するのではなく、あくまでも参加者のやりたいことを引き出しながら、一人ひとりが腹落ちするまでコーチングします。
――難しい部分はありますか?
たくさんありますよ。越境学習プロジェクトには、「参加者」を社内で支える「伴走者」がいて、ノンプロ研側に僕がいるという構図。だから、参加者が社内で感じたことや苦労したことなどを、私が肌で感じることはできません。話に聞く以外にないので、参加者がオープンにしてくれなければ、まったく手がかりがつかめなくなってしまいます。
でもこれは強みでもあって。第三者だからこそ聞ける話もあるんですよね。上司や先輩に言えないことだって、コーチになら言えるかもしれません。だから、参加者との面談で拾ったことは潰さずに拾い上げていきたい。無理に踏み込んでも引かれてしまいかねないので、安心して話してもらえるような雰囲気を作っていきたいです。
本業のモヤモヤは、本業でしか晴らせない
――これまでパラレルキャリアを通して、きのぴぃさんが得たものは何でしょうか?
いろいろな経験をしてきましたが、それはほかのコミュニティにも存分に生かせています。とくにコーチングのスキルは、本業でも日々活用しています。
一方で「結局、本業の悩みは本業でしか解決できない」ということにも気づかされました。例えばコーチングが楽しくても、だからといってほかのモヤモヤが晴れるわけじゃない。だから、それぞれの仕事をちゃんと頑張り抜こうと思います。
――将来の目標はありますか?
「近所の面白いおじさん」になることです(笑)。最近は、親子向けの自然体験ガイドをやろうと、初級インストラクターの資格を取りました。ファミプロのように、子どもが自分の親以外の大人と触れ合ういい機会になりますよね。2023年にはイベントを開く予定ですので、ぜひ!
――越境学習のコーディネーターをされているきのぴぃさんですが、同時に、越境学習者でもありますね。
そうですね。でも僕、馴染むのが早いからすぐホームになっちゃう(笑)。いろんな壁を気にせず、ホイホイといろんな場所に飛び込んでいけるのは僕の強みかもしれません。職場はわりと似たタイプの人たちが集まるし、利害関係もあるでしょう。ノンプロ研にはそうした縛りがないのがいいところ。大人にも子どもにも、安心できるサードプレイスがあるって素晴らしいことだなあとつくづく感じます。
会社に頼りきらない人生を始めると、自分の可能性がぐっと広がります。それに、いろんな人に出会えるのって単純に面白いですよね。パラレルキャリアの発想は、今後もっと大事になっていくと思います!
※記事中の写真はすべてイメージです。